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【著者に訊け】元特捜検事にして元受刑者 田中森一『遺言』

【著者に訊け】田中森一氏/『遺言』/双葉社 1600円+税

 およそバブルの実相を語るのにこれほど率直な渦中の人物もいまい。大阪及び東京地検特捜部時代は撚糸工連事件や平和相銀事件を手がけ、1988年弁護士に転身。山口組若頭・宅見勝やイトマン元常務・伊藤寿永光ら〈バブルの紳士〉と親交し、〈闇社会の守護神〉と呼ばれた田中森一氏(71)である。

 石橋産業手形詐欺事件で上告中だった2007年のベストセラー『反転』から7年。本書は昨秋刑期を満了した氏が4年8か月に亘る獄中生活や癌との闘病を綴った文字通りの『遺言』だという。が、都内の入院先を訪ねると表情は明るく、まなざしも穏やか。後進育成のための奨学財団の設立やライフワークとする論語の普及、そして同じく石橋産業事件で有罪判決を受けた許永中氏との再会など、〈私にはやり残したことがある〉と病床で力をこめた。

「今日はこんな格好ですみませんね」と田中氏はパジャマ姿を詫びた。服役中に胃癌を告知され、大阪医療刑務所で手術。1年に及ぶ抗癌剤治療にも耐えたが、今年2月胃と腹膜に再発が判明、現在も入院治療中だ。

「ここは天国ですよ。何かあると優しい看護師さんがすぐに来てくれるし手術後も痛み止め一つくれない医療刑務所とは大違い(笑い)。副作用がきつい時も食事は他の受刑者と同じだったから一時は拒食症になりかけた。

 でも僕は極限状況になると俄然負けん気が出る。体重が38kgを切る中、毎日必死で論語を勉強し書きためたノートが22冊。僕は『田中森一もバッジがなければタダの人』と言われるのが癪でね。今後の人生をどう生きるか、そればかり考えて生き延びてきました」

 長崎・平戸の漁師の長男に生まれ、苦学の末に検事となったいきさつや、数々の難事件に挑んだ特捜時代。また後に住専問題で槍玉にあがる末野興産や朝日住建、「コスモポリタン」の池田保次や「イ・アイ・イ」の高橋治則、安倍晋太郎ら清和会関係者の顧問弁護士として立ち会ったバブルの狂騒が、本書にも赤裸々に綴られる。その間、自身は石橋産業事件の共犯として逮捕・収監され、一時は40億に上った財産も弁護士資格も家族も、全てを失った。

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