ライフ

【書評】ゴジラに込められた「殺される無念」と「殺す快感」

【書評】『本多猪四郎 無冠の巨匠』切通理作著/洋泉社/本体2500円+税

切通理作(きりどおし・りさく):1964年東京都生まれ。和光大学卒業。編集者を経て批評家に。若者文化、映画などについての批評を手掛ける。『宮崎駿の〈世界〉』(ちくま文庫。サントリー学芸賞)など著書多数。近著に『東映特撮物語 矢島信男伝』(洋泉社刊)。

【評者】鈴木洋史(ノンフィクションライター)
 
 1954年に公開された日本初の怪獣映画『ゴジラ』を監督した本多猪四郎(1911~1993)は、国内では同じ東宝で監督デビューした黒澤明や特撮監督円谷英二の陰に隠れがちで、賞とも無縁だった。だが、『ゴジラ』を筆頭に『地球防衛軍』『宇宙大戦争』『モスラ』『キングコング対ゴジラ』『マタンゴ』など、監督した多くの空想特撮映画は幅広い大衆に支持され、本多自身もそのことに自負を持っていたという。

 そうした作品は海外でより称賛され、著者も〈いまでも歴史に埋もれておらず、繰り返し見られる映画〉だと評価する。

 本書は『ゴジラ』を中心とする作品論と、これまであまり書かれてこなかった評伝からなる初の本格的な本多論である。

 ゴジラは「核の落とし子」であり、本多自身、「ゴジラの本質は原爆の恐怖である」と繰り返し語っていた。戦前、本多は東宝の前身に入社後、都合3回召集され、8年余り一般兵として中国戦線を戦い(それもあって監督昇進が遅れた)、引き揚げの途中、広島を通過したときには「草木も生えない世界」への恐怖を感じた。

 だが、著者は、本多の『ゴジラ』は単純な反戦映画ではないと解釈する。そこではサディスティックなほど執拗に日本人がゴジラに踏み潰されるゆえ、一種のカタルシスが生まれる。

〈それがなければ、「かわいそうなのは私たちです」という戦後日本人にありがちな被害者意識に凝り固まった他の反戦映画と同じく、観客は女子どもにも容赦しないゴジラを戦争の象徴として憎んだだろう。ところが(中略)ゴジラは大スターになってしまった。明らかに観客は、殺される側の無念さと同時に殺す側の快感をも引き受けていたのだ〉。

関連記事

トピックス

ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン
和歌山県警(左、時事通信)幹部がソープランド「エンペラー」(右)を無料タカりか
《和歌山県警元幹部がソープ無料タカり》「身長155、バスト85以下の細身さんは余ってませんか?」摘発ちらつかせ執拗にLINE…摘発された経営者が怒りの告発「『いつでもあげられるからね』と脅された」
NEWSポストセブン
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《趣里と三山凌輝の子供にも言及》「アカチャンホンポに行きました…」伊藤蘭がディナーショーで明かした母娘の現在「私たち夫婦もよりしっかり」
NEWSポストセブン
高石あかりを撮り下ろし&インタビュー
『ばけばけ』ヒロイン・高石あかり・撮り下ろし&インタビュー 「2人がどう結ばれ、『うらめしい。けど、すばらしい日々』を歩いていくのか。最後まで見守っていただけたら嬉しいです!」
週刊ポスト
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《恐怖のマッサージルームと隠しカメラ》10代少女らが性的虐待にあった“悪魔の館”、寝室の天井に設置されていた小さなカメラ【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
寮内の暴力事案は裁判沙汰に
《広陵高校暴力問題》いまだ校長、前監督からの謝罪はなく被害生徒の父は「同じような事件の再発」を危惧 第三者委の調査はこれからで学校側は「個別の質問には対応しない」と回答
NEWSポストセブン
防犯カメラが捉えた緊迫の一幕とは──
《浜松・ガールズバー店員2人刺殺》「『お父さん、すみません』と泣いて土下座して…」被害者・竹内朋香さんの夫が振り返る“両手ナイフ男”の凶行からの壮絶な半年間
NEWSポストセブン
ドジャース・山本由伸投手(TikTokより)
《好みのタイプは年上モデル》ドジャース・山本由伸の多忙なオフに…Nikiとの関係は終了も現在も続く“友人関係”
NEWSポストセブン
親子4人死亡の3日後、”5人目の遺体”が別のマンションで発見された
《中堅ゼネコン勤務の“27歳交際相手”は牛刀で刺殺》「赤い軽自動車で出かけていた」親子4人死亡事件の母親がみせていた“不可解な行動” 「長男と口元がそっくりの美人なお母さん」
NEWSポストセブン
トランプ大統領もエスプタイン元被告との過去に親交があった1人(民主党より)
《電マ、ナースセットなど用途不明のグッズの数々》数千枚の写真が公開…10代女性らが被害に遭った“悪魔の館”で発見された数々の物品【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《ハワイで白黒ペアルック》「大谷翔平さんですか?」に真美子さんは“余裕の対応”…ファンが投稿した「ファミリーの仲睦まじい姿」
NEWSポストセブン