ズブ濡れになり、水たまりの中で仁王立ちする鈴木京香がいい。ラヴェルの「ボレロ」がBGMに流れる。ご存じ「ボレロ」とは、同じリズムが延々と繰り返し、リズムと音量が次第に勢いを増していく、あの名曲です。リズムがどんどん早くなって高揚していく中で、鈴木京香はズブ濡れ状態で両手を広げて天を仰いだまま。その姿はコミカル。ふと、笑いが漏れてしまう。シリアスな現実を、突き放している。
「小さなリアリティに足をとられることなく、人間の生き様の劇的な変化と気持ちの高まりを自由に描くのだ」という高らかな宣言として、「ボレロ」が耳に響いてきました。独特の「ねらい」と「趣向」が、このドラマにも仕込まれていそうです。
ちなみに、「ファンタジー」の定義とは--「現実とは別の世界・時代などの舞台設定や、超自然的存在や生命体などといった登場人物の不可思議さに、物語の魅力を求めたもの」(ブリタニカ国際大百科事典)。不可思議とは言っても、荒唐無稽とは違います。奇妙だからこそ説得力が増す「リアル」というものも、あるのです。
いよいよ、冬ドラマが一斉に始まる時期。それぞれが、どんな「ねらい」や「趣向」を見せてくれるのか。その点こそ、今期ドラマの人気の分かれ目になるのではないでしょうか。