国際情報

明治日本の世界遺産申請 韓国の「強制連行」記述要求の懸念

 日韓国交正常化50年の節目からわずか2日後の6月24日。韓国の光州高裁で、三菱重工業に賠償金支払いを命じる判決が下された。支払うべきとされた相手は、戦時中に朝鮮半島から徴用され、名古屋の軍需工場などで働かされたという韓国人女性と遺族5人で、総額は5億6208万ウォン(約6285万円)だった。

 この判決は、安倍晋三・首相と朴槿恵(パク・クネ)・大統領がそれぞれの国で開かれた50周年記念行事に出席することで演出した雪融けムードに暗い影を落とした。

 記念行事前日、岸田文雄・外相と韓国の尹炳世(ユン・ビョンセ)・外相が会談した際、笑顔で握手できた理由がまさに戦時徴用に関しての歩み寄りにあった。その経緯を考えれば、光州高裁判決は、握手を終えて部屋を出た途端に背後からバッサリ斬りつけられたようなものだ。

 5月4日、ユネスコの世界遺産に「明治日本の産業革命遺産」が登録勧告された。それに対し、韓国側が強く反発。日本が申請している23施設のうち7施設では、戦時下で5万7900人の朝鮮半島出身者が“強制労働”させられていたというのがその理由だ。登録を阻止するとして韓国の国会議員が海外のユネスコ委員に抗議活動を続けてきた。

 日韓外相会談ではその懸案について、日本が施設の説明文に「徴用工」の文言を入れ、韓国が進めている「百済の歴史地区」の世界遺産登録に協力することで一致した。

「徴用工」とは、戦時中に日本政府が軍需工場や炭鉱などでの労働力不足を補うために動員した労働者のことで、日本統治下の朝鮮半島でも動員がかけられた。正確な数は不明だが、10万人単位の朝鮮人が海を渡り、日本で働いたとされる。

 日本が世界遺産として申請している施設群は「明治日本」と謳っている通り、戦時中の徴用と歴史的価値は無関係だが、韓国側を納得させるために「徴用工がいた」という事実は記述することを落としどころにしようとしたのである。韓国問題に詳しい東京基督教大学の西岡力教授は懸念を表明する。

「施設の説明をする文章に、『後の時代ではあるが、徴用工がいた』という文言を加えるのは、事実ですから構わないと思います。ただ、韓国側は今後、『強制連行』『強制労働』『スレイブ』などの言葉も加えるべきだと言い出しかねない。それが心配です。

 徴用工に関して慎重に取り扱うべきと考えるのは、韓国の裁判所が近年次々と『日本企業は元徴用工に損害賠償すべき』というおかしな判決を出しているからです」

 徴用工という言葉を世界遺産施設に記載することが、新たな反日攻勢の材料になりかねないのである。

※週刊ポスト2015年7月10日号

関連記事

トピックス

元交際相手の白井秀征容疑者(本人SNS)のストーカーに悩まされていた岡崎彩咲陽さん(親族提供)
《川崎・ストーカー殺人》「悔しくて寝られない夜が何度も…」岡崎彩咲陽さんの兄弟が被告の厳罰求める“追悼ライブ”に500人が集結、兄は「俺の自慢の妹だな!愛してる」と涙
NEWSポストセブン
グラドルから本格派女優を目指す西本ヒカル
【ニコラス・ケイジと共演も】「目標は二階堂ふみ、沢尻エリカ」グラドルから本格派女優を目指す西本ヒカルの「すべてをさらけ出す覚悟」
週刊ポスト
阪神・藤川球児監督と、ヘッドコーチに就任した和田豊・元監督(時事通信フォト)
阪神・藤川球児監督 和田豊・元監督が「18歳年上のヘッドコーチ」就任の思惑と不安 几帳面さ、忠実さに評価の声も「何かあった時に責任を取る身代わりでは」の指摘も
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《ハワイで白黒ペアルック》「大谷翔平さんですか?」に真美子さんは“余裕の対応”…ファンが投稿した「ファミリーの仲睦まじい姿」
NEWSポストセブン
赤穂市民病院が公式に「医療過誤」だと認めている手術は一件のみ(写真/イメージマート)
「階段に突き落とされた」「試験の邪魔をされた」 漫画『脳外科医 竹田くん』のモデルになった赤穂市民病院医療過誤騒動に関係した執刀医と上司の医師の間で繰り広げられた“泥沼告訴合戦”
NEWSポストセブン
被害を受けたジュフリー氏、エプスタイン元被告(時事通信フォト、司法省(DOJ)より)
《女性の体に「ロリータ」の書き込み…》10代少女ら被害に…アメリカ史上最も“闇深い”人身売買事件、新たな写真が公開「手首に何かを巻きつける」「不気味に笑う男」【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
2025年はMLBのワールドシリーズで優勝。WBCでも優勝して、真の“世界一”を目指す(写真/AFLO)
《WBCで大谷翔平の二刀流の可能性は?》元祖WBC戦士・宮本慎也氏が展望「球数を制限しつつマウンドに立ってくれる」、連覇の可能性は50%
女性セブン
「名球会ONK座談会」の印象的なやりとりを振り返る
〈2025年追悼・長嶋茂雄さん 〉「ONK(王・長嶋・金田)座談会」を再録 日本中を明るく照らした“ミスターの言葉”、監督就任中も本音を隠さなかった「野球への熱い想い」
週刊ポスト
12月3日期間限定のスケートパークでオープニングセレモニーに登場した本田望結
《むっちりサンタ姿で登場》10キロ減量を報告した本田望結、ピッタリ衣装を着用した後にクリスマスディナーを“絶景レストラン”で堪能
NEWSポストセブン
訃報が報じられた、“ジャンボ尾崎”こと尾崎将司さん(時事通信フォト)
笹生優花、原英莉花らを育てたジャンボ尾崎さんが語っていた“成長の鉄則” 「最終目的が大きいほどいいわけでもない」
NEWSポストセブン
日高氏が「未成年女性アイドルを深夜に自宅呼び出し」していたことがわかった
《本誌スクープで年内活動辞退》「未成年アイドルを深夜自宅呼び出し」SKY-HIは「猛省しております」と回答していた【各テレビ局も検証を求める声】
NEWSポストセブン
訃報が報じられた、“ジャンボ尾崎”こと尾崎将司さん
亡くなったジャンボ尾崎さんが生前語っていた“人生最後に見たい景色” 「オレのことはもういいんだよ…」
NEWSポストセブン