「例えばスポーツ紙が6紙ある中で、6回に1回抜けばいい社もあれば6戦6勝が要求される社もあって、報知、じゃなくてスポーツ東都(笑い)の場合は、特に監督人事を鳥飼に抜かせるわけにいかないんですね。
しかも球団とナアナアかと思うと実はそうでもないらしく、知ってて書けないばかりか、他社に書かせないように目を配るのも仕事の一つ。ところが球団側が全部話してくれているかと思うと肝心なことは隠されたり、そこにも読売、じゃなくて東都(笑い)内のヒエラルキーがあったりするんです」
京極や球団の思惑に翻弄されつつプライドを貫く紀野と鳥飼の騙し合いがいい。
「監督はまだしも、控えのトレードを抜いたところで、別に天下国家がどうなるわけじゃない。そのどうってことないことを本気で争う、だけど実力を認めるもの同士がその時々で敵味方に分かれて本気で戦うから、野球だって面白いわけでしょ」
本書は昔話でもお伽噺でもなく、「トリダシ的な記者は今もいることはいる」と本城氏はいう。“たかがネタ”に誇りすら賭ける露骨でギラギラした人間臭さが胸に迫るのは、それが時代や職種を超えた仕事の神髄だからだろう。
【著者プロフィール】本城雅人(ほんじょう・まさと):1965年神奈川県生まれ。明治学院大学経済学部卒。「学生時代は『優駿』でバイトし、スポーツメディアで働くのが夢でした」。産経新聞社入社後はサンケイスポーツに配属。野球、競馬、メジャー取材に携わり、2009年退社。同年松本清張賞候補作『ノーバディノウズ』でデビュー、翌年WBC連覇を記念した「サムライジャパン野球文学賞」受賞。著書に『スカウト・デイズ』『球界消滅』『誉れ高き勇敢なブルーよ』等。170cm、60kg、B型。
(構成/橋本紀子)
※週刊ポスト2015年8月7日号