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【著者に訊け】目黒考二 亡父に捧ぐ『昭和残影 父のこと』

【著者に訊け】目黒考二氏/『昭和残影 父のこと』/KADOKAWA/1700円+税

 文芸評論家・北上次郎としても知られる目黒考二氏が、父が歩いた町を歩き、父が生きた時代を無数の書物に確かめる時、その執拗で自由すぎる(?)足取りは、一個人史を超えた感興を読む者にもたらす。

「ノンフィクションを書いたことがなかったので、この書き方でよかったのかどうか、今でもわかりません。脱線が多すぎるし(笑い)」

 名づけて『昭和残影 父のこと』。明治~昭和の川崎、蒲田、池袋といった風景に父の残影を探したかと思いきや手順はむしろ逆。実は父を通じて町や時代を書く手法を、目黒氏は足立巻一『虹滅記』(1982年)に倣ったと明かす。本書は「『虹滅記』は最も愛着のある評伝文学の傑作」と語る氏の憧憬を込めたオマージュでもある。

 だが主客はこの際、どうでもいいのかもしれない。対象の中に顕在化する父・亀治郎、そして博覧強記の本読み・考二の姿は、どう見ても似たもの親子であり、叙情より叙事に徹する息子は、この父親にとって最高の孝行息子に違いない。

 目黒亀治郎。明治42(1909)年生まれ。新潟出身の父・市太郎は横浜の貿易商の下で働いた後、京浜電鉄に入り、亀治郎は川崎にあった社宅で生まれ育つ。大正11年、名門・横浜第一中学へ。しかし4年で中退すると左翼系の地下活動に携わり、昭和4年の「四・一六事件」で検挙。保釈後も横須賀で反戦活動を続けるが、同8年に懲役8年の実刑を受け、宇都宮刑務所に都合6年間、服役する。

 目黒氏が最も驚いたのは父が保釈中に渡辺初代という同志と結婚していた事実だ。その後、妻が特高の虐待がもとで病死したことを獄中で聞いた亀治郎は〈一週間泣きつづけた〉という。

「刑務所の話は本人から聞いていましたが、結婚の話は山岸一章著『聳ゆるマスト』(1981年・そびゆるマスト)で初めて知った。父に母以外の妻がいる青春があったことが衝撃でした。それくらい父は家では自分のことを話さず、古本屋でどっさり本を買ってきたり、大好きだった辞書を真っ黒な指でめくる姿しか印象にない。50歳で孔版印刷の工場を始めたから、指にインクが残るんですね。その姿は〈孤高というよりも狷介〉で、友達が少なく、本さえ読めれば満足な僕は、結局親父そっくりです(笑い)」

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