ライフ

【著者に訊け】月村了衛氏 ハードボイルド作『影の中の影』

【著者に訊け】月村了衛氏/『影の中の影』/新潮社/1600円+税

 一気読み必至!! と目下話題のストーリーテラー・月村了衛氏。その創作現場は1行1行書いては推敲を重ねる入念な姿勢と、高い技術に支えられていた。

「いちおう1日10枚をノルマにしていますが、2枚で精一杯な時もある。それを技術と感じさせず、『ああ、面白かった!』と、最後の1行まで楽しんでもらってこそ、大衆文学ですから」

 最新作『影の中の影』も、期待を裏切らない会心作だ。ある時、裏社会にも通じた敏腕ジャーナリスト〈仁科曜子〉は、中国当局の迫害を受けるウイグル族の大物〈テギン氏〉の取材にこぎつけ、指定された公園に赴く。が、彼は曜子の目の前で暗殺され、最後にこう言い残したのだ。〈カーガーに連絡を〉〈助けを……助けを求めるのだ……〉

 日本に潜伏中のウイグル人亡命団の保護に協力することになった曜子は刺客に命を狙われつつも謎の言葉カーガーの正体を追い始める。神出鬼没の〈蝙蝠部隊〉、新疆ウイグル自治区で行なわれた〈悪魔の所業〉など、虚と実、正義と悪がいとも簡単に反転しうる、今こそ読みたいエンタメ巨編だ。

 筆名は脚本家になる前からのもの。

「私は元々、時代小説家志望だったもので」

 少年時代から山田風太郎や角田喜久雄、山本周五郎を愛読し、「一見奇想天外な虚構の中に紛れもない今を描く、痛快で本来的な時代小説」に魅せられてきた。

「最近は司馬遼太郎絶対主義というか、歴史小説は確かに隆盛していますが、一方で林不忘の『丹下左膳』とか吉川英治なら『神州天馬侠』のような、純粋な娯楽物語としての側面が失われているように思うんです。『眠狂四郎』(柴田錬三郎)が支持された理由もたぶん主人公の現代性にあって、虚構を借りて今を描くエンタメの本流は、むしろ時代小説にあったはずです」

 例えばデビュー作『機龍警察』ではパワードスーツを思わせる特殊装備を纏った傭兵部隊がテロリストを相手に活躍。警察が傭兵を雇う至近未来を描いて好評を博し、シリーズ化された。

「特に今の国際情勢は文献が5年で古くなるほど変化が激しく、テロや難民問題など、日本だけで完結する事象は何一つない。本書に書いた弾圧政策や〈人体実験〉にしても、登場人物以外はほぼ事実の通りです」

 その生き証人こそ、曜子が出会った亡命団だった。かねてウイグルでは核実験ばかりか、都市部に強制移住させた若い女性を漢族と結婚させる〈扶貧政策〉が進められていた。曜子は思う。

〈中国が目論んでいるのはウイグル族の漢族への同化、もしくは完全なる死滅であって、それは資源の簒奪を狙う極めて大規模且つ悪質な民族浄化に他ならない〉

関連記事

トピックス

アルジェリア人のダビア・ベンキレッド被告(TikTokより)
「少女の顔を無理やり股に引き寄せて…」「遺体は旅行用トランクで運び出した」12歳少女を殺害したアルジェリア人女性(27)が終身刑、3年間の事件に涙の決着【仏・女性犯罪者で初の判決】
NEWSポストセブン
19歳の時に性別適合手術を受けたタレント・はるな愛(時事通信フォト)
《私たちは女じゃない》性別適合手術から35年のタレント・はるな愛、親には“相談しない”⋯初めての術例に挑む執刀医に体を託して切り拓いた人生
NEWSポストセブン
ガールズメッセ2025」に出席された佳子さま(時事通信フォト)
佳子さまの「清楚すぎる水玉ワンピース」から見える“紀子さまとの絆”  ロングワンピースもVネックの半袖タイプもドット柄で「よく似合う」の声続々
週刊ポスト
永野芽郁の近影が目撃された(2025年10月)
《プラダのデニムパンツでお揃いコーデ》「男性のほうがウマが合う」永野芽郁が和風パスタ店でじゃれあった“イケメン元マネージャー”と深い信頼関係を築いたワケ
NEWSポストセブン
多くの外国人観光客などが渋谷のハロウィンを楽しんだ
《渋谷ハロウィン2025》「大麻の匂いがして……」土砂降り&厳戒態勢で“地下”や“クラブ”がホットスポット化、大通りは“ボヤ騒ぎ”で一時騒然
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(左・共同通信)
《熊による本格的な人間領域への侵攻》「人間をナメ切っている」“アーバン熊2.0”が「住宅街は安全でエサ(人間)がいっぱい」と知ってしまったワケ 
声優高槻かなこ。舞台や歌唱、配信など多岐にわたる活躍を見せる
【独占告白】声優・高槻かなこが語る「インド人との国際結婚」の真相 SNS上での「デマ情報拡散」や見知らぬ“足跡”に恐怖
NEWSポストセブン
人気キャラが出現するなど盛り上がりを見せたが、消防車が出動の場面も
渋谷のクラブで「いつでも女の子に(クスリ)混ぜますよ」と…警察の本気警備に“センター街離れ”で路上からクラブへ《渋谷ハロウィン2025ルポ》
NEWSポストセブン
クマによる被害
「走って逃げたら追い越され、正面から顔を…」「頭の肉が裂け頭蓋骨が見えた」北秋田市でクマに襲われた男性(68)が明かした被害の一部始終《考え方を変えないと被害は増える》
NEWSポストセブン
園遊会に出席された愛子さまと佳子さま(時事通信フォト/JMPA)
「ルール違反では?」と危惧する声も…愛子さまと佳子さまの“赤色セットアップ”が物議、皇室ジャーナリストが語る“お召し物の色ルール”実情
NEWSポストセブン
9月に開催した“全英バスツアー”の舞台裏を公開(インスタグラムより)
「車内で謎の上下運動」「大きく舌を出してストローを」“タダで行為できます”金髪美女インフルエンサーが公開した映像に意味深シーン
NEWSポストセブン
「原点回帰」しつつある中川安奈・フリーアナ(本人のInstagramより)
《腰を突き出すトレーニング動画も…》中川安奈アナ、原点回帰の“けしからんインスタ投稿”で復活気配、NHK退社後の活躍のカギを握る“ラテン系のオープンなノリ”
NEWSポストセブン