◆その“くどさ”がいいんです
ドラマーとしてデビューする夢を抱き続けていたのに、声が認められて、歌手としてデビューしたのは28才のとき。遅いデビューだ。
――ご自分の声をどう思います?
「自信はありましたけど、周りで認めてくれる人はいなかった(笑い)。ハコバン時代、お店に来る人って、たいていホステスさん目当てか、踊りたいからで。歌を聴きに来る人なんかいませんでしたからね」
――やがて『クリスマスキャロルの頃には』の大ヒットを飛ばしました。
「これは三井誠さんの曲が先にできていて、素晴らしい曲になることはわかっていたんです。でも、サビの部分があまりによくて、そこだけ突出してしまうんですよね。で、直しの作業だけで2~3年も経ってしまったんです。普通だったら投げ出してしまうと思うんですけどね。そこに、秋元康くんが詞をつけてくれたんだけど、『クリスマスキャロル』という言葉が8回も出てくる。ぼくが“くどいんじゃないの”って言ったら、秋元くんが“そのくどさがいいんですよ”って(笑い)」
はからずも知る名曲の誕生秘話。そして、今また女性歌手とのデュエットによるカバー・アルバム『男と女』シリーズが堅実なヒットを飛ばしている。今秋発売された5作目も好評だ。
――松田聖子やユーミンなどオリジナルは女性歌手ばかり。そんな中『およげ!たいやきくん』が異色ですね。
「ぼくのハコバン時代、1975年の曲です。当時のぼくはドラマーだから歌は歌わない、まして邦楽は歌わない、と決めていたんですが、“たいやきくん”は大ヒット曲ですからね、歌わないわけにはいかなかったんです。そんな思い出の曲でもあるので、今回アルバムに入れました」
ジャズっぽいアレンジで大人がじっくり聴ける曲になっている。なお、稲垣のデュエット曲数は、このアルバムで59曲となり、石原裕次郎さんを抜いて日本人単独トップだそう。
――本当に歌声が変わりませんが、声のために心がけていることはありますか?
「33年も歌ってきて、声が変わっていないわけはないんですけど、“変わりませんね”と言っていただけるのはうれしいですね。この声を守り抜いていかなければと思いますが、特別なことはしてないんです」
――暴飲暴食なんてもっての外?
「ああ、最近は慎んでいます(笑い)」
最後の最後まで崩れることのない稲垣さん。その真面目な人柄は好感度大でした。
撮影■矢口和也
※女性セブン2015年11月26日号