芸能

安楽死描くNHK『破裂』は「人間に肉薄する優れた娯楽作品」

 テレビドラマを映像作品として一段低く見る風潮はもう過去のものだろう。海外では巨匠たちが続々とドラマの世界に参画している。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。

 * * *
『下町ロケット』(TBS系日曜午後9時)は、サラリーマンの応援歌。日頃のストレスと憤懣に対する「癒し」効果バツグンなのか、視聴率は20%を突破した。

「社会を描く」という意味でこの『下町ロケット』と共通するけれど、ひと味違ったテーマを鋭くつきつけてくる、優れたドラマもある。癒されるというよりは、社会に潜む「緊張」と答の出ない「問い」ををえぐり出して見せるような……。それが『破裂』(NHK土曜午後10時)だ。

 エリート医師・香村が研究しているのは、老人の心臓を若返らせる“夢の治療法”。しかし深刻な副作用がまだ克服できていない。その新療法を、国策として老人の安楽死に利用しようと企むのが、官僚・佐久間。二人の対峙に、ピリピリと張りつめた空気が漂う。

 役者たちは凄い集中力を見せる。仲代達矢、坂井真樹、キムラ緑子、モロ師岡、佐野史郎……と、配役もこの上ない「適材適所」。そしてスリリングなカメラワーク、練り上げられたセリフ。『破裂』の魅力は、こうした要素が融合して醸し出される「緊張感」にある。

 冷たくキレるエリート医師、香村を演じる椎名桔平。自分の画期的な研究成果が大量安楽死の方法としてねじ曲げられていく。そこに父との葛藤、元妻との葛藤が加わり……。表情をぴくりとも動かさない硬質な横顔の香村が、実に魅力的。椎名の名演技が視聴者を惹きつける。片時も目を放せない。

 ところが。

 その「緊張」とは対照的に、ふと笑いを誘う「ゆるみ」もあちこちに用意されている。安楽死の国策名が「プロジェクト天寿」と名付けられ、「ピンピン元気」音頭にあわせて、ゆるキャラが踊る、といった風に……。

 エリート医師と対比される「ゆるみ」の象徴が、官僚・佐久間を演じる滝藤賢一だ。目をひんむく。両手をあげる。天を仰いで哄笑する。異様なテンション。オーバーアクション。カリカチュア。見ている視聴者は、ここでふっと力を抜く。「こんな異様な官僚、現実にはいるはずない」と。

 ふと、肩の力がゆるむ瞬間があるからこそ、よけいに香村が画面に現ると緊張が高まっていく。緊張と、ゆるみ。その「緩急」が、実に見事な仕掛けになっているのだ。

関連記事

トピックス

6月6日から公開されている映画『国宝』(インスタグラムより)
【吉沢亮の演技が絶賛】歌舞伎映画『国宝』はなぜ東宝の配給なのか 松竹は「回答する立場にはございません」としつつ、「盛況となりますよう期待しております」と異例の回答
NEWSポストセブン
さいたま市大宮区のマンション内で人骨が見つかった
《さいたま市頭蓋骨殺人》「マンションに警官や鑑識が出入りして…」頭蓋骨7年間保管の齋藤純容疑者の自宅で起きた“ある異変”「遺体を捨てたゴミ捨て場はすごく目立つ場所」
NEWSポストセブン
大谷翔平の投手復帰が待ち望まれている状況だが…
大谷翔平「二刀流復活でもドジャースV逸」の悲劇を防ぐカギは“7月末トレード” 最悪のシナリオは「中途半端な形で二刀流本格復活」
週刊ポスト
フランスが誇る国民的俳優だったジェラール・ドパルデュー被告(EPA=時事)
「おい、俺の大きな日傘に触ってみろ」仏・国民的俳優ジェラール・ドパルデュー被告の“卑猥な言葉、痴漢、強姦…”を女性20人以上が告発《裁判で禁錮1年6か月の判決》
NEWSポストセブン
ホームランを放った後に、“デコルテポーズ”をキメる大谷(写真/AFLO)
《ベンチでおもむろにパシャパシャ》大谷翔平が試合中に使う美容液は1本1万7000円 パフォーマンス向上のために始めた肌ケア…今ではきめ細かい美肌が代名詞に
女性セブン
ブラジルへの公式訪問を終えた佳子さま(時事通信フォト)
《ブラジルでは“暗黙の了解”が通じず…》佳子さまの“ブルーの個性派バッグ3690レアル”をご使用、現地ブランドがSNSで嬉々として連続発信
NEWSポストセブン
告発文に掲載されていたBさんの写真。はだけた胸元には社員証がはっきりと写っていた
「深夜に観光名所で露出…」地方メディアを揺るがす「幹部のわいせつ告発文」騒動、当事者はすでに退職 直撃に明かした“事情”
NEWSポストセブン
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
「生肉からの混入はあり得ないとの回答を得た」“ウジ虫混入ラーメン”騒動、来来亭が調査結果を公表…虫の特定には至らず
NEWSポストセブン
左:激太り後の水原被告、右:2月6日、懲役刑を言い渡された時の水原被告(左:AFLO、右:時事通信)
《3度目の正直「ついに収監」》水原一平被告と最愛の妻はすでに別居状態か〈私の夢は彼と小さな結婚式を挙げること〉 ペットとの面会に米連邦刑務局は「ノー!ノー!ノー!」
NEWSポストセブン
“超ミニ丈”のテニスウェア姿を披露した園田選手(本人インスタグラムより)
《けしからん恵体で注目》プロテニス選手・園田彩乃「ほしい物リスト」に並ぶ生々しい高単価商品の数々…初のファンミ価格は強気のお値段
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン