昨年春、職場内で育休取得の意思を打ち明けた。すると、上司に会議室に呼び出された。上司は大野さんにこう告げた。
「なんで大野くんが休まないといけないんだ?」
「二世帯住宅のご両親の助けは借りられないのか?」
大野さんが、
「自分の子供を自分の手で育てたい」
「両親は現役で共働きだから面倒は見てくれない」
「子育てで得た経験を仕事に役立てたい」
などと、いくら子育ての思いや復帰後の人生設計の話をしても上司は聞く耳を持たなかった。それからしばらくして部内で飲み会が開かれた。女性は理解を示してくれたが、大野さんの育休に賛同する男性は誰もいなかった。
「今、会社が大変な時に育休なんか取ってんじゃないよ」
「父親の出番は育休じゃない!」
反対の先導者の上司は、お酒も入っていたのか、声を荒らげて、こう言い放った。
「仕事から逃げるために育休を選んだんだろ。お前の仕事を応援したいという同僚の気持ちを考えろよ!」
そこから大野さんは針のむしろだった。
「翌日は、精神的にダメージを受けて、会社に行けなかったんです。1日休んで職場に復帰したのですが、上司から呼び出されて『育休を許可します』と言われました。おそらく精神的に病んだから休ませようということになったんだと思います。逆に言うと、休まなかったら育休を取れなかったかもしれません」
これは決してレアなケースではない。『経産省の山田課長補佐、ただいま育休中』(文春文庫)の著者で国家公務員の山田正人さんは2004年11月から1年間、第3子のために育休を取得した。友人たちの反応は「アウトだぞ」「出世に響く」「そういう道を選んじゃったんだな」と惨憺たるものだった。
「きっと選挙にでも出るつもりだろう」と陰口を言われたこともあるという。
「日本社会は、どれだけ私生活を犠牲にして組織に忠誠心を示したかが求められるんだなと実感しました」(山田さん)
※女性セブン2016年3月24日号