溝口:ただ、弘道会にはかつて「十仁会」というヒットマンを抱えた秘密組織がありました。現在は機能していませんが、すぐに復活させる力はあるでしょう。
鈴木:弘道会はもともと武闘派でのし上がった組織ですからね。でも、たぶん幹部が「動くな」と命じているはずです。
暗殺専門の秘密部隊というと恐ろしく感じますが、ヒットマンを一言で言えば、ふだんブラブラして何もしない人。暴力団には必ず何もしない遊び人が何人かいた。抗争が起きたときのために彼らを飼っておいたわけですよね。
溝口:そう。組長が何から何まで面倒を見てくれる。
鈴木:何もしていないのに金をもらえるわけだから、いざとなれば「オレが」とヒットマンになる。しかし暴力団も官僚化、合理化されて、ムダな遊び人を切り捨ててきた。
溝口:暴力団同士の抗争では、相手を殺して「うちの○○がやりました」と世間にアピールするように自首させてはじめて報復が完成します。
山一抗争(1980年代の山口組と一和会の抗争)では相手の組事務所を襲撃するカチコミがたくさんあったけど、量刑が上がって割が合わないからいまは誰もやろうとしない。
●すずき・ともひこ/1966年、北海道生まれ。『実話時代』編集などを経て、フリージャーナリストに。『潜入ルポ ヤクザの修羅場』(文春新書)、『山口組 分裂抗争の全内幕』(宝島社、共著)など著書多数。
●みぞぐち・あつし/1942年、東京生まれ。早稲田大学政経学部卒。『食肉の帝王』で講談社ノンフィクション賞を受賞。『暴力団』『続・暴力団』(ともに新潮新書)、『新装版 ヤクザ崩壊 半グレ勃興』(講談社+α文庫)など著書多数。
※SAPIO2016年4月号