そんな阪神ファンが唯一静かになるのが7回表の相手チームの攻撃中。ラッキーセブン(7回裏の攻撃)に備えて虎ファンたちがジェット風船を膨らまし始めるからだ。ただし、いったん膨らませ終わると、「おい藤浪、まだ終わらへんのか。早よせぇ! 風船がしぼんでしまうがな」とまた騒ぎ始めるのであった。
この日はラッキーセブンでも再逆転できず。9回裏、代打・板山祐太郎の大飛球も巨人のセンター・立岡宗一郎がナイスキャッチ。スタンドからはため息まじりに、
「タピオカ~(立岡を揶揄する阪神ファンの定番ヤジ)」
という力ない声が漏れ、そのまま3-5でゲームセット。試合後、阪神ファン歴30年という大阪府在住の会社員・桧川和昭さんはこう語った。
「今日は負けてしまったけど、とにかく、なんとか選手や監督をヤジでドキッとさせようとスポーツ紙から女性週刊誌まで読み漁って情報を集めてますわ。選手の実家の商売の話や家計状況まで調べますよ」
かつて巨額の借金問題が取り沙汰された巨人・桑田真澄に、「桑田! カネ貸したろか」のヤジを飛ばし、フリーアナウンサー・山本モナとの不倫騒動が報じられた二岡智宏を「モナ岡~、五反田~、9800円~」とからかった甲子園のファンの存在感はやはり異色だ。現役時代に阪神で4番を打ち、監督も経験した岡田彰布氏も、甲子園のヤジは印象に残っていると語る。
「そら、温かいヤジなんか一個もあれへん。聞こえて来るのはキツいヤジばっかり。いちいち気にしていたら甲子園で野球なんかやってられへん。ただ、“ここで打てんかったら、スタンドからヤジられ、スポーツ紙に叩かれ、家にも帰られへん”というプレッシャーと戦ううちに、精神的にタフになれるのも確かや」
5月10日からは、また甲子園で巨人―阪神の2連戦。伝統の一戦に、爆笑ヤジが彩りを加える。
※週刊ポスト2016年5月20日号