作家が文章に、画家が絵に心血を注ぐように、囲碁棋士は自らが打った石に魂を込め、その結晶が棋譜(一局の全手順を示したもの)という形として後世に語り継がれる。井山は棋譜への思いが人一倍強いのではないか。そう考えれば「打ちたい手を打つ」井山の姿勢がいっそう理解できる。
「単に記録だけではなく『井山は面白い碁を打つな』と感じていただけたら幸せです」と語る井山は、七冠獲得後初の防衛戦となる本因坊戦七番勝負に早くも臨んでいる。
まだまだ続く囲碁の道。この先にはいったいどんな風景が広がっているのだろうか。
◆いやま・ゆうた:1989年5月24日生まれ、大阪府出身。5歳でテレビゲームをきっかけに囲碁を始め、6歳で石井邦生九段に弟子入り。師匠との約1000局に及ぶネット対局と実戦で才能を開花させ、中学入学と同時にプロ入り。20歳4か月で史上最年少名人の記録を更新し、4月20日に史上初の七冠を獲得した。趣味はスポーツ観戦、好きな漫画は『名探偵コナン』、好きな芸人はダウンタウン。
取材・文■甘竹潤二 撮影■田中智久
※週刊ポスト2016年5月20日号