その魅力的な歌が、テレビやラジオを通じて全国に届けられ、私たちは背伸びしつつも憧れや夢、あるいは切ない人間模様やままならない人生を感じ取った。しかし――。
「ゴールデンタイムから消えかかったことで、歌番組は歌を流行させる力を失いました。その舞台はCMやドラマのタイアップに変わっていきます。そしてカラオケの流行によって、多くの人にとって歌は聴くものから歌うものへ変貌しました。女性に支持される女性歌手が増えたのは、このためです」(音楽ジャーナリストの宇野維正さん)
するともうあの頃のような、聴くと情景が浮かび上がり、胸にしまい込んだ記憶を重ね合わせたくなるような歌は、生まれないのだろうか。それとも、10年後20年後にも歌い継がれるものが、近頃の歌の中にもあるのだろうか。音楽評論家の田家秀樹さんはこう断言する。
「あります。多いか少ないかといったら、以前より少ないかもしれないけれど。例えば、AKB48の『ヘビーローテーション』や『恋するフォーチュンクッキー』は名曲だし、世代を問わずみんなが踊れる、歌ってみたくなる歌です。
今の音楽があるのは、歌謡曲の裾野が広がった結果でもあります。古い新しいにかかわらず、いいものがたくさんある音楽シーンが、今なんです。ですから、みんなが親しむ音楽が増えているという意味では、今、歌謡曲の黄金時代が訪れているともいえます」
ますます豊かになる新しい時代の音楽。その原点にあるのが、私たちの青春時代の歌謡曲なのかもしれない。
※女性セブン2016年6月16日号