戦後最悪の事件から一週間、容疑者が「教師」という夢に破れ、夜遊びに没頭し、莫大な借金を抱えて、生活保護の受給を申請していた…といった姿が白日の元に晒されつつある。社会的な挫折もあるだろうが、私は、無力感に弱り切った植松容疑者に危険ドラッグが与えた「気付き」が、現実逃避としての自信や確信を抱かせ、犯行に与えた影響は大きいと考えている。
拙著『脱法ドラッグの罠』(2014)執筆には間に合わなかったが、危険ドラッグへの規制強化により、首都圏や大都市部で販売出来なくなった危険ドラッグの在庫が、都会の反社会性力から、地方のチンピラに横流しされ、主に田舎の方で流通が始まっているとも聞いていた。西東京を拠点に危険ドラッグの販売店を複数経営していた男性は、次のように話していた。
「西は厚木や相模原や八王子、北はさいたま市、東は足立とか千葉。東京の周りの田舎にガンガン(危険ドラッグを)流す。在庫処分です」
それがまやかしであったとしても、危険ドラッグを使用することで植松容疑者は「気付き」を得て、自分を特別な存在だと自信をもったに違いない。ところが、その特別な存在に自分を高めてくれた危険ドラッグが「在庫処分」であるという事実は、彼の主張する「右翼的思想」の底の浅さを証明しているかのようだ。
危険ドラッグへの規制や取り締まりが強化され、関連する事故や事件の報道が目立たなくなった今こそ、「気付き」による社会的逸脱など、本当の危険性に注意を向けなければならないだろう。