以下は2013年、関東の某更正施設にて危険ドラッグ常用者への聞き取りを記録した取材ノートからの抜粋である。

「草(大麻)だと頭がポワーってなんの。最近のハーブ(脱法ハーブ=危険ドラッグ)は、頭にキーンとくる、シャブ(覚せい剤)っぽい感じで全然違う。ハーブ吸ってオナニーして、音楽聞いて歌詞に感動して泣いたり、マンガ読んで大笑いしたり。シャブやって作詞作曲なんてよく聞くけど、(危険ドラッグは)感度が高くなるっつーか、真実を感じる事が出来る」

 さらに別の取材対象者は、まさに植松容疑者の言動とそっくりな、根拠がない陰謀と世界観を述べている。

「ハーブは、俺たちに”気付き”を与えてくれる。311(東日本大震災)ってアメリカがやった人工地震って知ってます? 日本の芸能界の9割が朝鮮人だし、共産党も中国とソ連(ロシア)の言いなり、民主党(民進党)もその子飼」

 極めつけは、かつて派遣社員だった男性の次の証言だ。極論を展開して、世の中を変えねばならないと力説するが、身勝手な、あるべき世界のあり方を一方的に決めつける主張は、植松容疑者が求める世界にそっくりだ。そこには、ともに生活する人たちとの対話や交流はない。

「俺たちは奴隷だ。派遣会社から搾取され、多数派の老人から搾取され。ジジイババアなんか生きていても一円にもならないし、俺たちが飼っていかなきゃいけない。老人も障害者も死ぬべきで、選挙票欲しさに奴らを擁護する自民党、公明党を消すべきなんだよ」

 危険ドラッグの使用について、ラットを使った実験で「脳細胞の破壊が見られる」などの臨床データは出ているが、人体にどのような影響を及ぼすかについての具体的な研究結果はない。しかし、取材した危険ドラッグ常用者の多くが、荒唐無稽で単純な陰謀論を「真実だ」と思い込んでしまい攻撃的になる傾向が強いことを、私は肌で感じた。服用すると心身を弛緩させる大麻の場合、周囲に対して攻撃性を見せることはない。

 また、危険ドラッグ常用者には攻撃性と被害妄想がよくみられたが、覚醒剤使用者が見せるそれとも彼らは違っていた。危険ドラッグを使い続けた人は、それを服用していないときにもハイな状態が続き自分でコントロールできなくなり、常に攻撃的な言動をするようになる。この、のべつまくなしに見せる攻撃性は、危険ドラッグ使用者だけにみられる大きな特徴だ。

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