◆生きていて良かった!
母親は施設暮らしを始め、一人息子は既に家を出ていた。家族の繋がりを失った事が、この当時の彼女の痛みだった。現在、高齢によって様々な不調を抱える彼女は、癌による〝痛み〟は、「たいしたものではなかった」と語った。ここに来る前にスティーブンス医師が言ったように、「人々は、耐えられない(身体的な)痛みのせいで安楽死を選ぶのではない」という話にも通ずる。
「End of Life Option(人生終結の選択)の法があると、私のように選ぶことを考えると思うわ。しかし、なければどうでしょうか。とにかく最期まで生き延びるしかないと考えないかしら」
あなたがドクター・スティーブンスに出会わなければ、すでにこの世にはいないということですね?
「イエス」。ここで私は、彼女とは対照的な存在となり、この世を去ったブリタニー・メイナードの出来事について、訊いてみたかった。もちろん2人の病気は大きく異なり、末期の症状もまったく違うが、同じオレゴン州で尊厳死法を希望した者同士である。ジャネットは、哀れむような表情をしながら、ブリタニーの死について、こう語る。
「29歳で死ぬなんて、なんていうことかしら。もっと長く生きることができたかもしれないのに。あの時、ワールシュ医師ではなくて、スティーブンス医師に相談をしていたら、違った道があったのかもしれません」
なぜブリタニーの主治医の名前を彼女はとっさに口にできたのか。彼女は当初、肛門癌を「痔」と診断されたことは記したが、その際、誤診した医師こそ、ワールシュ医師だったのだ。