「実はここ、私がジャネットを治療してから5年後に偶然、再会したレストランなんです。あの時のことは、今でも忘れません。一度、人生を諦めた彼女は、ここで私に向かってこう言いました。『先生、あなたは、私の命を救ってくれました。あの時、薬を飲んでいたら、今、私がここにいることはなかった』と……」
ハム&チーズのキッシュを口に運びながら、医師は語り出した。私は、パストラミビーフが何層にも重ねられたパニーニを食べ始めた。関係ないことだが、私が大好きなこのアメリカ料理が、もう少し健康食に改善されれば、この国の寿命は延びるのではないかと、ふと思ってしまった。
無口のまま食事をしていたが、突然、彼は、重要な台詞を口にした。
「人々は、耐えられない痛みのせいで安楽死や自殺幇助を選ぶのではなく、周りに迷惑をかけたくないという理由から選ぶ傾向のほうが強いと言います。私が出会った多くの患者の中で、深刻な親子問題を抱える人たちほど、患者が死期を早めようとしていました」
さらにこの放射線科医は、安楽死を行う人々には、ある決まった特徴があると言い出した。米障害者団体「ノット・デッド・イェット(まだ死んでいない)」のダイアン・コールマン代表が指摘する「4W」という常套句を、私に教示した。
「まずは、白人(White)のW、次に裕福(Wealthy)のW、次は心配性(Worried)のW、そして最後は高学歴(Well-educated)のWです。心配性というのは、まだ患っていない将来の病気や、痛みを気にかけているという意味です」
これが白人だけの問題なのかは定かではないが、その他3つのWに関しては、それなりに頷けるものがあった。確かに、私が看取ったスイスの患者たちの中に、高学歴者が何人かいた。