ブリタニーの病が誤診だったなんて言いたいわけではないし、実際彼女の病状は誰が診ても絶望的なものだっただろう。しかし、出会う医師によって、死が許されるのか、あるいは、禁ずる方向に導かれるのかの分岐点がある事実を、私は改めて知った。

 ジャネットの家を去る前、私は医師と患者2人の写真を撮った。その時、彼女が小声で、こう言った。

「スティーブンス先生、本当にありがとう。あなたがいらっしゃらなければ、私は今頃……。グレイト・トゥービー・アライブ(生きていて良かった)!」

 やや作られた台詞臭い響きがあった。しかし、この言葉こそ、死期を早めることを一度は考えたが、今もなお生き続けている人間だけが口にできる無上の一言に違いないと、私は思った。

 彼女と別れた後、極度の疲労感に襲われた。車中でスティーブンス医師から、さらなる難題を突きつけられた。

「安楽死という医療行為が、患者を痛みから逃れさせるためにあるのだとすれば、なぜ、アフリカやアジアの途上国では行われていないのでしょうか」

 言われてみれば確かにそうだ。なぜなんだ? すると銀縁の眼鏡の奥にある優しいまなざしが、私の瞳を捉えた。

「家族です。そう、家族の形が、われわれ白人社会とは違うんだと思う」

 ブリタニーの夫、ダン・ディアスが、人間が安らかに死ねるための法を全米で推進するのに対し、スティーブンス医師とジャネットは、人間がいかに簡単に死んではならないのかを訴える。わずか4日の間に、両者は、私に対極の論理を提示してきた。

 なぜ、安楽死を容認する人と、それを否認する人とに分かれるのか。安楽死が世に存在する本来の意味は一体何なのだろうか。医師と別れた後も、自問自答の時間は続いた。

 ついに、このときが来てしまった。私は、今、これまで以上に人の死をロジカルに捉えることができない、究極の崖っぷちに立たされることになった。

※SAPIO2016年11月号

関連記事

トピックス

大谷翔平選手(時事通信フォト)と妻・真美子さん(富士通レッドウェーブ公式ブログより)
《水原一平ショック》大谷翔平は「真美子なら安心してボケられる」妻の同級生が明かした「女神様キャラ」な一面
NEWSポストセブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
岸信夫元防衛相の長男・信千世氏(写真/共同通信社)
《世襲候補の“裏金相続”問題》岸信夫元防衛相の長男・信千世氏、二階俊博元幹事長の後継者 次期総選挙にも大きな影響
週刊ポスト
女優業のほか、YouTuberとしての活動にも精を出す川口春奈
女優業快調の川口春奈はYouTubeも大人気 「一人ラーメン」に続いて「サウナ動画」もヒット
週刊ポスト
二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ
《独立後相次ぐオファー》二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ 「終盤に出てくる重要な役」か
女性セブン
真剣交際していることがわかった斉藤ちはると姫野和樹(各写真は本人のインスタグラムより)
《匂わせインスタ連続投稿》テレ朝・斎藤ちはるアナ、“姫野和樹となら世間に知られてもいい”の真剣愛「彼のレクサス運転」「お揃いヴィトンのブレスレット」
NEWSポストセブン
デビュー50年の太田裕美、乳がん治療終了から5年目の試練 呂律が回らず歌うことが困難に、コンサート出演は見合わせて休養に専念
デビュー50年の太田裕美、乳がん治療終了から5年目の試練 呂律が回らず歌うことが困難に、コンサート出演は見合わせて休養に専念
女性セブン
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
破局した大倉忠義と広瀬アリス
《スクープ》広瀬アリスと大倉忠義が破局!2年交際も「仕事が順調すぎて」すれ違い、アリスはすでに引っ越し
女性セブン
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン