◆安楽死を望む「4W」な人々
私たちは車に乗り込んで、30分ほどの道のりを走った。ポートランド市内を抜けると、彼は、運転をしながら彼自身の過去について、話を始めた。
「私の最初の妻は、39歳の時、脳腫瘍で死亡しました。当時、精密検査を終え、私たち2人が診察室を出ようとしている時、医師が言ったのです。『規定量以上のモルヒネを出しましょうか?』と。妻は、『彼は私に、死を助長している』と考えた。彼女にとって、その医師の言葉こそが一番の痛みだったんです。その瞬間に医師と患者の信頼関係が失われた。妻は、その2週間後に自然死しました」
妻の死は、彼にとって衝撃的な出来事になった。2人は、6人の子供をもうけたが、当時42歳だったスティーブンス医師に全てが託される形となった。数年後、彼は4人の子を持つ未亡人と再婚。この女性とは、2人の子供を授かり、合計14人の大家族を築いた。
患者だけでなく、医師もそうだが、安楽死や自殺幇助を受けたり行ったりする人々は、過去に何らかの命を巡るやりとりを経験している、と私は思う。スイスの女医は、父親が自殺未遂をする現場を目撃し、自殺幇助のエキスパートになった。ある患者は認知症の親の姿を見て同じ最期を望まなかった。
一方、闘病生活と向き合い、最期まで生きる望みを捨てなかった妻を亡くしたスティーブンス医師は、むしろ人工的な死を助長する制度に反対する。ジャネットは、高齢者専用の集合住宅で暮らしていた。彼女の家の前に車を止めると、彼は車を降りて玄関口まで足を運んだ。しばらくするとまた車に戻り、安堵した表情で私に言った。
「やっぱり携帯の電源を入れていなかったみたいです。今は息子さんが来ていて都合が悪いそうですが、1時間後に来てくださいと言っています。その間、近くで腹ごしらえでもしましょう」
私たちは、すぐ近くにあったファミリーレストランに向かった。