◆米国の“間隙”を縫った
これまで安倍首相がロシアを訪問する際には日本の財界をあげて、大規模な経済ミッションを組んで同行した。しかし現在、企業経営者の多くは、ロシアへの投資に尻込みしている現実がある。
「ロシアへの投資には米国が目を光らせており、経済制裁破りと見られて厳しいペナルティを科せられる危険が大きい。日本の企業も銀行も恐くて事業参加に踏み切れない」(メガバンク関係者)からだ。
また安倍政権の原発再稼働政策を財界も支持している手前、ロシアの自然エネルギーに投資することにも躊躇がある。そうした中、孫氏は米国の大統領選挙で“監視”が緩んだ間隙を縫って、経済制裁下にあるロシアに単身乗り込み、独裁的な権力を握るプーチン大統領に“直談判”した。空前の国際プロジェクトの絵を描いてみせ、いまや北方領土返還のキーマンになった。
その行動は「海賊」と呼ばれたあの人物を思わせる。60有余年前、出光石油の創立者・出光佐三氏は、英国の経済制裁で石油メジャーさえ手を出せずにいたイランにひそかにタンカーを送り、原油を買い付けて日本に運ぶという荒技で世界をあっと言わせた。
「地球のどこかで太陽は輝き、風は吹き、水は流れる。2020年の東京五輪のとき、(4か国の)ゴールデンリングの電力で電気のトーチがつながればいいと思っています」
孫氏は、今年9月に開かれた日本の自然エネルギー財団の記念シンポジウムで、満を持して東京五輪までの構想実現をぶち上げた。
※週刊ポスト2016年12月2日号