「大河ドラマスタッフの偉い方が僕の美術館に来た時に、ストーリー作りは“想像に頼る部分が大きい”という話をされていました。やはりドラマにするなら脚色してドラマチックにしないといけない。
繰り返しますが、ドラマはドラマとして描けばいい。史実を解き明かすのは研究者の仕事と責任で、ドラマ制作者ではないのです」(達夫氏)
また、達夫氏が発表する史料がすぐに「歴史的事実」と認定されるわけでもないようだ。『時代考証学ことはじめ』の共著者で、本誌でコラム「時代劇を斬る!」(~2015年4月)を連載した安田清人氏はこう語る。
「井伊次郎直虎が男だという説は以前からあったのですが、研究者によって説は違う。逆にいえば“直虎が女性だった”ということを示す決定的な史料が存在しないことも事実です。まずは発見された文献の内容を見なければ分かりませんが、複数の研究者による精査が必要ですから、史実かどうかを確定するにしても相当な時間を要するでしょう」
NHKに訊ねると「ドラマはあくまでもフィクションです。1年間、視聴者のみなさまに楽しんでいただける大河ドラマを制作して参ります」(広報局)との回答だった。あるNHKドラマスタッフもこう明かす。
「今年の真田幸村も実は幼少~青年期の史料は極めて少ない人物でしたが、だからこそ『真田丸』では三谷さんの演出の自由度が広くなって面白さが増した。それに“史実と違うんじゃないか”という議論は、ドラマの関心が高まるので、実はネガティブな話題じゃない。その点で言えば、史料が乏しい直虎は“美味しいキャラクター”なんです」
どうやら史料が明らかになったとしても、ストーリーの変更はない模様。まァ、“おとこ城主直虎”では、誰も観てくれないのは間違いないが……。
※週刊ポスト2016年12月23日号