◆自分の作品で初めて泣いた
朝日新聞の映画評に取り上げられて広く世間に知れわたった作品が、『妻たちの性体験 夫の眼の前で、今…』だった。主演は風祭ゆき。
「細身で美形、日活には少ない金持ち夫人役が似合う女優でした。この作品の集団レイプのシーンは運動会みたいになって、ゆきさんの細い体が壊れないか心配でしたが、杞憂でした。『また小沼組に参加したい』と志願してくれて、翌年『悪女軍団』にも出てくれました」
小沼氏が「自信作」に挙げるのが、SMショーで生計を立てる若い男女の旅を描いた『縄と乳房』だ。
「主演の松川ナミは谷ナオミ引退後の1982年にデビューしSM路線を担った女優です。ローソクのシーンでも、熱さをこらえて、熱い部分に性感が集中しているような見事な演技をしてくれた。相手役の田山涼成の演技も素晴らしく、自分の映画の試写で初めて泣きました」
1980年代に入ると、ビニ本の氾濫やAVの普及などで、ロマンポルノは次第に衰退していった。1985年、AVに対抗して始まった過激路線《ロマンX》の一本として撮ったのが『箱の中の女 処女いけにえ』。会社からは、オールビデオ撮り、モザイク多用という指示が出された。
「主演の木築沙絵子は、汚物の流れる下水道の中を全裸で逃げ惑うシーンに挑んでくれた。前貼りが剥がれそうとか泥水が目に入ったとか泣きごとを言わない。彼女の強靱な精神がなければ撮れなかった作品です」
その他にも、山科ゆり、小川恵、高田美和、志水季里子など、小沼作品を彩った女優たちとの思い出は尽きない。
「女優のベストワンは挙げられない。しかし、小沼勝が女優に恵まれた監督だったことは間違いありません」
●こぬま・まさる/1937年、北海道小樽市生まれ。1961年、日大芸術学部映画学科を卒業後、日活に入社。助監督として最初についたのは、森永健次郎監督、香月美奈子、川地民夫主演の『胸の中の火』(1961年)だった。以降、野口博志、井田探、鈴木清順、中平康などのアクション・青春映画の助監督として活躍。1971年、ロマンポルノ第3弾『花芯の誘い』で監督デビュー。以後、1988年の『箱の中の女2』まで47作を撮った。その後、テレビドラマの演出やVシネマの監督を務め、2000年に12年ぶりの劇場公開映画『NAGISA なぎさ』を監督。2002年『女はバス停で服を着替えた』を最後に監督業を引退した。2月18日には『花芯の刺青 熟れた壷』が、新宿武蔵野館で上映。このほか、横浜シネマ・ジャック&ベティ、名古屋シネマテーク、京都みなみ会館、cinema KOBE、福岡中洲大洋劇場でも小沼監督作品を含む旧作を上映。
※週刊ポスト2017年2月17日号