ベネッティ社は日本に納入実績があるといっても、比較的基準が緩い個人所有のクルーザーがほとんどだ。都が建造する「旅客船」の検査は段違いに厳しい。
「都のクルーザーは基本的にイタリア製の素材を多く使うはずだからそれを全部検査しなければならない。京都の織物の絨毯もJIS(日本工業規格)を取得していない特注品なら検査。すべてパスするまで、通常なら3~4年かかるでしょう。来年12月の納期は難しく、2020年の五輪に間に合わない可能性もある。都は日本の行政手続きに不慣れな海外メーカーに発注すべきではなかった」(同前)
建設費の肥大化や工法の難しさで計画の白紙撤回に追い込まれた新国立競技場の二の舞いになりかねない。
ベネッティ社の広報担当は「顧客のプライバシー保護のため、受注時の発表以外の情報は出せない」と言い、東京都港湾局は、「アルミ船体への変更についてなどは、先方との調整事項に関わるのでお答えできない。建造費の上乗せや納期の遅れはないと聞いている」と回答した。
小池知事にとって“不幸中の幸い”なのはまだクルーザー建造が始まっていないことだろう。豪華クルーザーを持ってしまえばランニングコストやメンテナンスに建造費以上のカネ(税金)がかかる。違約金を払うことになっても、「もったいないから建造キャンセルする」と決断する最後のチャンスなのだ。
※週刊ポスト2017年6月2日号