──先生は著書の中で「摂取カロリーを正確に把握することは難しい」と書いていますが、糖質についても1食20~40gなんて正確に分かるものなのでしょうか?
山田:非常に重要なご質問です。例えばカツオでも初ガツオと戻りガツオでカロリーが違いますが、それは基本的には脂の乗り方の違いです。ラムとマトンのカロリーの相違もそうです。食品に含まれるカロリーは脂の乗り方、差しの入り方で変わるので、まったく把握できません。
一方、食品に含まれる糖質の量はかなり安定しているのです。おかず(メインディッシュ=主菜、サイドディッシュ=副菜)に含まれる肉、魚、野菜といった食材の中の糖質量は1食あたりほぼ20g程度となることが経験的に知られています。
ですので、主食(穀類)と果物の糖質量を合計で20g程度に抑えれば、1食の合計は40g以内に収まるのです。先ほどの炊いた米70g、食パン6枚切り1枚というのは糖質量が20g強の主食量なのです。主食の糖質量さえ考えておけば、糖質摂取量を安定させることは可能です。
──確かに総カロリーよりは把握しやすいかもしれませんね。
山田:消費者庁の『食品表示法に基づく栄養成分表示のためのガイドライン』を見ると、例えば同じ鶏肉であっても若鶏と成鶏といった種や年齢、エサによってカロリーが違うことが明らかと記載されていますし、食品メーカーが表示する際にもプラスマイナス20%の誤差はOKとされています。それだけ正確なカロリー計算は難しいのです。
一方、私たち日本人は1食100g程度の糖質を食べています。それを1食30gにしようと目指してプラスマイナス20%のブレがあったとしても、24~36gの範疇に収まります。ブレていて一向に構わないのです。
1食40gを目指して上にブレたら50g程度とオーバーしてしまうじゃないかと心配された方もどうぞご安心ください。糖質制限の場合には、よっぽど極端な場合を除いて、やればやるほど効果が出ますが、緩やかでも緩やかなりの効果が出ます。1食40gが50gになったからといって効果の相違は10gの部分とわずかなものなのです。安心してブレてください。
──食べる順番も大事だとか。肉や魚、野菜を食べて最後に糖質を摂る「カーボラスト」を心掛ければいいと説かれていますが、ご飯と一緒におかずを食べないと満足できない人も多い。
山田:たんぱく質や脂質、食物繊維などはそれぞれ血糖値を上げにくくする成分をお腹から出させているので、しっかり食べて最後に糖質を摂取すれば、同じ糖質量でもカーボファーストで食べたときより血糖値が上がりにくくなります。また、糖質にいく前に満腹になれば摂取量も減っていきますしね。
そういった意味では、例えば和食の懐石料理は理にかなっていますし、由緒正しい蕎麦屋でお酒を飲みながらつまみをしばらく食べ、最後に蕎麦をすするのもロカボ的には正しい食べ方なんですね。
ご飯と一緒におかずを食べないと満足できない人というのは、おかずの味付けの塩分が濃い方です。おかず単品で食べるためには、減塩と加油を意識する必要があります。
──お酒といえば、糖質が多く含まれてダイエットの妨げになると思われてきたビールについても、先生は飲んでいいと説かれていることに驚きました。
山田:小麦が原料のビールは、これまで血糖値が上がりやすいお酒を考えられてきましたが、最近その常識が崩れつつあります。
文部科学省が発行している『七訂日本食品標準成分表』(2015年版)を見ると、今でもビールの欄には100mlあたり約3.1gの炭水化物が含まれていると書かれています。つまり、350mlの缶ビールには約10gの糖質が入っているとされてきました。
しかし、正確にいうと糖質は炭水化物から食物繊維を除いたもので、これが血糖値を上げる成分だと考えられています。その中には血糖値に影響を与えない有機酸や糖アルコールも入っています。そういったものを除外し、ブドウ糖や果糖、ショ糖など血糖値を上げる糖類だけを「利用可能炭水化物(単糖当量)」として細かく測定する動きが進んでいます。
そこで、改めてビールの栄養成分を検出してみると、利用可能炭水化物をほとんど含まないことが分かりました。前出の成分表にも「微量」と書かれています。つまり、ビールは血糖値を上げないお酒だという認識になったのです。
──ビールをたくさん飲んでも太らないということですか?
山田:ビールの中には黒ビールのように糖類が多く含まれる種類もあるので一概には言えませんが、基本的には他のたんぱく質や油が豊富な食べ物と一緒に飲めば高血糖になりにくいといえます。血糖値を上げなければダイエットにも繋がります。
だから、この季節ビアガーデンに行ったら、ジョッキビールを片手に、枝豆と唐揚げを思う存分味わってほしいと思います。焼肉に行ってお酒を飲みながら次々と肉や野菜を食べ、最後に特上カルビでシメてもまったく問題ありませんよ(笑い)。