◆エースの完投はいらない
監督に就任する年、鍛治舎は自身が率いていた中学硬式野球のオール枚方ボーイズの選手をごっそり入学させ、秀岳館を瞬く間に強豪に育て上げた。しかし、熊本出身者が一人もいないメンバー構成は「大阪第2代表」とも揶揄された。
川上哲治を生んだ、高校野球の盛んな熊本を戦う難しさとして、伝統校と戦うと、どうしても不利な判定になると鍛治舎は話した。
「私は就任してからこの3年、公式戦の主審に対して、『○・△・×』の評価を付けていた。熊本の伝統校とやる時の主審はすべて『×』の主審ですよ(笑)」
この人は胸の内を隠せない人だ。もちろん、パナソニックの専務や中継解説者を務めてきたから「建前」を語ることも求められる。それでも高校野球への率直すぎる思いを言葉や行動に出さずにはいられない。だからこそ、二枚舌に見えたり、保守的な高校球界で“異物”として扱われたりする。
それが分かると、好感すら持ててくる。鍛治舎は高校野球に一石を投じるべく、縁もゆかりもなかった熊本にやって来た。この夏は名門・横浜と1回戦で対戦。川端健斗と田浦文丸というWエースの継投で、6対4で勝利した。休息日を挟んだ2日後、再び鍛治舎のもとを訪ねた。