たとえば、夏木マリは歌手として活動していたところを五社に見出され、『鬼龍院』で初めて本格的に演技の道に入る。仲代達矢を相手に回しての仇役である。いきなりの大役に緊張する夏木に、五社はこう声をかけたという。

「君は歌手だよね。歌手でいろんな舞台踏んでるよね。これは舞台だと思って思い切って行けばいいんだ。演技とかそういうことじゃなくて思い切って行きなさい」

 この言葉に夏木は発奮し、並居る名優たちを相手に堂々たる演技を披露、現在に至る役者への道の第一歩を踏み出していくことになる。どうすれば女優たちの気持ちを乗せられるのか。そのことだけをひたすら考えて、状況や相手に応じてさまざまな工夫を凝らした気遣いをしていたのだ。

◆女優を強引に脱がせたことはなかった

 そして、こうした五社の女優演出の集大成ともいえるのが、各作品における「濡れ場」、つまりラブシーンの数々であった。当時の人気女優たちが惜しげもなく大胆なヌードを披露し、妖艶な濡れ場を繰り広げていく。そのことは、当時の五社作品の代名詞にもなっていた。

 こうした場面でも、五社は女優を強引に脱がそうとしたり、脱がすために何か特別な秘策を仕込んでいたわけではない。他の芝居と同様、彼女たちが演じやすい環境を作っていく中で、女優たちは五社に惚れ抜き、身も心も任せ切っていたのである。だからこそ、進んで全てをさらけ出すようになっていく。

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