「憲法9条2項の戦力不保持の規定をそのまま残して自衛隊を明記するという安倍私案は、国会で批判を浴びた吉田茂首相の『自衛隊は戦力なき軍隊』という迷答弁を思い起こさせる。普通に考えても無理があるし、与野党協議では必ずその矛盾が指摘されるはずです。
むしろ、憲法協議が始まれば野党の保守勢力から、自民党草案にある9条2項廃止と国防軍創設をキチンと規定する方がまっとうだと提案されるでしょう。公明党が難色を示したとしても、希望や維新が賛成すれば容認せざるを得ない。そうなると、自民党草案をベースとした改憲案が3分の2の賛成で発議される可能性が高い」
実は、安倍首相も自民党も、野党が2項廃止や国防軍創設を言い出せば渡りに舟の大歓迎だ。首相は選挙中も自民党が優勢にたつと、党首討論で私案通り「そのまま残す」としていた戦力不保持を定めた9条2項について、言い方を変えた。
「2項を残すかどうかについては議論がある。ただ、2項を残すとしても自衛隊という組織を明記することは自民党みんなが一致している」と、廃止に含みを持たせたのだ。
総選挙で「国防軍」創設を正面から掲げて信を問うたのであれば、国民は投票でその是非を判断することができるはずだった。「自衛隊明記」と言いながら、公約にない改憲案をいきなり突きつけられたとき、改憲を支持する国民でさえ“こんなはずでは”という絶望の淵に立たされる。
※週刊ポスト2017年11月3日号