芸能

『全員死刑』監督 ありきたりな不良もの映画には嫌悪がある

「押さえつけるものへの抵抗はいつも意識している」小林勇貴監督

『全員死刑』(11月18日公開、主演・間宮祥太朗)で商業デビューを飾る小林勇貴監督が映画を撮り始めたのは、約4年前のこと。当初はコンパクトカメラの動画機能を使用して映画を撮っていた小林監督は、グラフィックデザインの専門学校は卒業していたが、映像や映画の学校に通ったことはなかった。むさぼるように映画を観て、本を読み、がむしゃらに撮影して映画監督になるまでを聞いた。

 * * *
──デザイン会社に勤めながら、映画制作を始めたそうですね。

小林勇貴(以下、小林):『NIGHT SAFARI』(2014年)は会社勤めしながら撮影していたので、土曜の朝、始発で静岡に帰り、夜に撮影をして日曜日に東京に戻るスケジュールでした。夜しか撮れないので映画も全編、夜の作品でした。そのまま会社勤めしながら撮り続けていくのかなと思っていたのですが、いろいろなことが重なって、映画を仕事にしていこうと会社を辞めました。

──映画で賞をとったことがきっかけだったのでしょうか?

小林:2013年から映画を撮り始め、2014年に撮った『Super Tandem』と『NIGHT SAFARI』で、それぞれ世界最大級の自主映画祭「ぴあフィルムフェスティバル」で入選、カナザワ映画祭でグランプリをもらいました。もし、どちらか一作だけが受賞したのであれば、たまたまなのかなと思ったかもしれない。でも、別々の作品が認められた。これは面白いんじゃないかなと思って撮った映画が、次々、面白かったよと返してもらえた。確かに映画賞受賞は、いつか映画を仕事にできるようにしたいなと考えるきっかけになりました。

──仕事との両立は問題なかったんでしょうか?

小林:当時はできているつもりでしたが、仕事と映画、両立できていなかったんだろうなあ。自主制作の映画が評価されて学生時代の憧れの人たち、西村喜廣監督、ライターの鈴木智彦さん、『映画秘宝』の田野辺尚人さんなどに映画祭で直接、顔を合わせたり話をしたり、食事をしにいって映画を褒めてもらうなどしていると、仕事と映画と、どちらが現実なのかだんだんわからなくなり、混濁した状態で会社に出ていました。

──仕事との切り替えが難しそうですね。

小林:基本的に会社で働く人でいなければならないのに、土日に映画を撮ることばかり考える人になっちゃってるんです。会社のPCでAdobe Illustratorの画面を出しつつ、片隅に小さくテキストエディットを立ち上げて脚本を書いていました。でも、バレバレです。だって、仕事で使うのは描画ソフトなのに、キーボードばかり叩いているんですから(笑)

──当時、睡眠時間はどのくらいだったのですか?

小林:仕事に映画の準備、脚本書きをしつつ、一日に3、4本の映画を見る生活だったので、寝ていなかったですね。でも、楽しくて仕方なかったです。終電帰りが当たり前の職場でしたが、それで何か浸食される必要があるかと毎日、意地になって映画を観ていました。勤務地が幡ヶ谷だったので、京王新線一本で新宿に出て降りて、新宿TSUTAYAに駆け込んで映画を借りる生活でした。

──どんな作品をよく借りていたのですか?

小林:東映の実録ヤクザ映画やバイオレンスもの、ホラー映画や、好きな監督の作品、これは必修だろうと言われるヌーベルバーグ作品なども観ました。当時の新宿TSUTAYAは、珍しい作品も必ず見つかる在庫豊富な店でした。古いVシネマや一般には忘れられているような映画も置いてあって、レンタル屋だとそれを借りている人がいるのが分かる。見知らぬ人間との妙な友情が芽生えた気分になりました。その生活のおかげで『脱獄広島殺人囚』(中島貞夫監督、1974年)という大傑作にも出会えました。

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