「事前通知の導入は、球団側としては嫌ですね。その場で初めて金額を伝える方が、選手に考える時間を与えずに済む。選手側からすれば、反撃の材料を用意する時間ができることになります」(野崎氏)
たとえば、こんな変化が生まれるかもしれない。
──入団6年目、25試合登板で8勝7敗、防御率3.53で規定回数に届かない110イニングの先発投手に「500万円アップ」が提示された。
前年の6勝5敗から勝ち星は2つ多くなり、今季年俸が3000万円だった選手は、「いよいよ4000万円台」と胸を弾ませていたので、思わぬ渋い提示となった。
これまでなら、金額の提示は「交渉の場」でいきなりだった。選手は面食らったまま反論どころではない。
「もっとイニング数を投げてもらいたい」
「防御率がいいとは言えない。負け試合をもう少し減らさないと」
と球団側は矢継ぎ早に注文を飛ばす。選手側は、
「今オフに子供が生まれる予定で……」
といった感情に訴える反論しかできず、査定担当がさらに具体的な材料を持ち出し、「保留しても金額は変わらない」と通告される。選手側はそのままハンコをつくしかなかった。
それが、「事前通知」であれば選手にもデータをかき集める時間ができる。