「ヤクザの親分をやる時でも悪役をやる時でも、品がないって嫌なんですよ。着物の着方も歩き方も、品があった方がいい。
着物をはだけて着ると粋な感じになりますが、襦袢まではだけると汚くなり、品がなくなります。ですから、着物をざっくり着る時でも、襦袢だけはきちっとしている。そういう計算をして芝居はする必要があります。
悪役をやる時は『怖くしよう』とは考えません。優しい顔をして人を殺すのが一番怖いと思っているので、悪役も基本的には二枚目じゃなきゃいけないと思っています。悪いことするのも汚ないことするのも品がないと。
そのためにも色気は大事です。色気って、自分で出そうと思って出るものではない。色気を出そうとしているのが見える人って、色気ないですもんね。陰で色気を出す努力をして頑張って、それでふっとした瞬間に出るといいますか、人がそう思った時が色気なんだと思います。そのためには私生活からちゃんとしてないと。私生活がダメな奴は顔に出ます。
目指すところは、たとえば寺の庭掃除をしている人が後ろ姿しか見えてなくても、『この人、誰だろう』って思ってもらえる芝居がしたい。島田正吾さんみたいなね。よく『背中で芝居をする』って言いますが、昔の俳優はそれができているんです。赤穂城を去っていく大石内蔵助を演じた萬屋錦之介さん、頭を下げている後ろ姿だけなのに全てを語っています。ああいう芝居が大好きです」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
■撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2017年12月8日号