映画「ダイハード」の舞台にもなったロサンゼルス市センチュリーシティーにあるCAA本社の会議室。大谷の前に座ったエプラーGMは、メジャーの常識を破る提案をした。エンゼルスで二刀流を実現するために、常識破りの6人ローテーションを提案し、登板の合間で指名打者(DH)での起用を明言。同席したマイク・ソーシア監督も二刀流での起用を約束してみせた。エンゼルスのDHは通算614本塁打を記録する“至宝”アルバート・プホルズがいる。過去1塁手で2度のゴールデングラブ賞を受賞しているプホルズだが、37歳のベテランになり、今季は6試合しか守っていない。そのプホルズを説得して守備につかしてまでも、大谷をDHで起用する「誠意」を形で示してみせた。
エンゼルスは1961年創設の歴史の浅いチーム。同じロサンゼルスにあるドジャースには実績や人気でも後塵を拝しているが、ガチガチに縛られる環境よりも、大谷の成長過程を温かく目で見守ってくれる環境にある。
世界一になったのは21世紀に入った2002年のわずか一度だけ。今季はアメリカン・リーグ西地区で80勝82敗と負け越して、世界一となったヒューストン・アストロズには21ゲームの大差をつけられた敗北。チームの特徴は打高投低でエース不在。26歳と若く、2度のMVPに輝くマイク・トラウトを軸に世代交代が至上命題なのは明らかだった。エプラーGMにとって、23歳と伸び盛りで、投打の両面で高いポテンシャルを見せつける大谷は魅力的であり、彼の希望を受け入れるだけの未来志向の考えも持ち合わせていた。
エプラーの大谷愛は、花巻東時代からだという。その大谷は入団会見で、「エンゼルスに縁を感じた」と入団理由を話した。縁の一つには間違いなくエプラーGMの存在も入っているだろう。5年越しに大谷のハートを射止めた男の一途さには、来季の年間最優秀GMの声が早くも出始めている。