声はその人の感情がダイレクトに出やすい。豊田さんのように感情の変化で声が高くなったり、早口になったり、語気が荒くなるのは最悪だが、綱川社長らのように淡々と一本調子なのも、単に説明しているだけという印象を与え、当事者意識の希薄さを印象づけてしまう。
謝罪会見は、自己主張や言い訳をする場ではない。しかし、自分だけが悪いわけではないと思っていると、つい言い訳をしてしまうのが人間だ。言い訳もせずに平身低頭、謝罪する姿勢を貫いたほうが切り抜けられる可能性が高い。というのも、心理学では弱みを見せることで同情を集められるという「アンダードッグ(負け犬)効果」というものがあり、これをうまく利用すれば窮地を切り抜けやすいといわれている。
政治家が選挙の投票日前日、自分が劣勢だとわかると「助けてください」と頭を下げ、「どうか私に1票を」と切々と訴えて当選するのは、この効果を利用したものだ。政治家ならお手の物のはずなのだが、自分をアピールしパフォーマンスを見せる選挙運動と違い、謝罪会見はマスコミの問いにも答えねばならない。豊田さんのように気にいらない質問につい本性が見え隠れすると、返って反感を買うことになる。
謝罪会見で、この効果をうまく使ったのが渡辺謙さんだ。会見冒頭、世間を騒がせたとしっかり頭を下げ、妻への謝罪には、それ以上に自分が悪かったと強い口調で言い切った。どんな質問にも下手に言い訳をせず、ただひたすら自分が悪いという姿勢を崩さず負け犬に徹していたのだ。そのためか、妻の闘病中の不倫という状況にも関わらず、マスコミの追及はそれほど執拗ではなかった。
この効果を使っても印象が悪かったのが、二重不倫疑惑の「雨上がり決死隊」の宮迫博之さんと、元SPEEDの今井絵理子議員との不倫疑惑が報じられた橋本健元市議。2人とも疑惑は否定。低姿勢の会見ながら、言葉や表情と仕草がどうにもかみ合っていない。「一線を越えていない」なんて言葉はにわかに信じられないし、言いながらも橋本元市議は汗を流し、宮迫さんは手をテーブルの下に隠していたのだから、見ている側は意識せずともそこから嘘を感じ取ってしまう。
そして、この効果で切り抜けようとして失敗したのが、格安ツアーを手がけていた「てるみくらぶ」の山田千賀子社長だ。自己破産による被害者は9万人、山田社長は11月に詐欺で逮捕された。だが会見時には詐欺を否定し、泣き落とし戦術のごとく口元を手で覆って声を震わせ、顔を伏せて泣いていた。しかし、会見の終了間際、上げた顔には涙の跡もなく目は赤くも潤んでもおらず、嘘泣きだとバレてしまった。
一生懸命さとそこに嘘がないように見えるからこそ、アンダードッグ効果は発揮される。たとえ謝罪がパフォーマンスだとしても、だからこそ世間の目は厳しくなる。謝罪とは実に難しいものなのである。
撮影/矢口和也