鈴木と綾香さんは現在、別居している。
「康大とも、娘とも、そういう(離婚するという)話はしておりません。夫婦間の問題ですから、私らが何かしら進言することはありません。当事者たちが話し合って、方向性が決まったなら、それに対して助言はしたいと思っています」
鈴木の今後には困難な道が待ち受けるだろう。カヌー界に居場所があるはずもない。
「彼はカヌーしかやってこなかった人間です。たとえば、違う分野で飯を食おうと思っても、並大抵のことではないでしょう。だからといって、私の会社に戻すこともできない。彼のこれからに関して、たとえば僧侶となって、一から禅の道を歩むというのも、自分自身に置き換えて考えたりしております。預かっていただける、有り難い方がいらっしゃれば。禅寺で精神を鍛え直して、ご飯だけでも食べさせてもらって。何年かかるかわからないですけど、そういう道が残されているのかなと。一連の捜査が終わって、ケジメをつける段階となったら、彼に提案してみたい。彼は彼で、反省をしながら、悩み苦しんではおると思うのです。私は彼を突き放すつもりはありません。知恵を与え、親として力になっていきたい」
インタビューは澄み切った青空の下、スポーツジムの前で行った。およそ30分の間、久野氏の目元には大粒の涙があふれていた。
「これは決して悔しくて泣いているわけじゃないんです。どうも目が太陽に弱くて、紫外線にさらされ続けると、涙が出てしまうんです」
五輪を目指すために鈴木が8年間も手を染めてきた悪質な行為の数々は、愚劣の一言に尽きる。彼が自ら踏み入れた闇に光を灯す人は果たして現われるのだろうか。
(文中一部敬称略)