だから斎藤さんはブレイク後も一貫して、「僕は一発屋」「いつか飽きられる」「俳優に向いていない」などのネガティブなコメントを連発。その言葉に嘘はなく、下積み期間が長かったからこそ、「見たことがない自分に出会えるから」という理由でさまざまな仕事に挑んでいるようです。
最近、「斎藤工は攻めている」という声を聞きますが、本人にとってはこれまで通り。学生時代からバックパッカーとして世界各国を旅した経験からも、リスクより未知のものに引かれるギャンブラー気質のところもあるのでしょう。それどころか、「落ち着きはじめた僕」「無難にこなすようになった自分」になることを拒んでいるようにも見えるのです。
もともと斎藤さんは、俳優に加えて、美声を生かしたナレーション、長身を生かしたモデル、さらに写真家、コラムニストとしても活動するなど、多才の極み。才能や好奇心はもちろんのこと、かつて「俳優の固定されたイメージは邪魔になるだけ」と語っていたことから、フレーム(枠)に収まらないようにしている様子がうかがえます。
俳優というフレーム(枠)から飛び出してさまざまな仕事に挑むことは、「イメージの固定化を防ぐ」ほか、「その経験を芝居に還元できる」というメリットもあるだけに、現在のスタンスはちょうどいいのかもしれません。
◆国産野菜を食べるよう邦画を観てほしい
幼いころから映画を見続けてきただけあって、演じる側だけでなく、作る側の視点を持ち合わせているのも斎藤さんの強み。だからバラエティー番組やイベントなどへの出演時も、演出として効果的であれば、セクシーからバカまで、何でも期待以上の結果を残そうとするのでしょう。
ただ、かつて「国産の野菜を食べる様 邦画を観てください」と語っていたように、映画への思いは相当なもの。どんな芸能活動も斎藤さんにとっては、映画に還元できる大切な経験だけに、今後も俳優からフレームアウトした活躍を見せてくれるでしょう。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本前後のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。