思想史研究家・慶応大学法学部教授の片山杜秀氏


片山:退位した天皇は上皇となります。元号と天皇は変わっても、平成を象徴する上皇が存在しているとなると、二重権威というよりも二重価値になる。次の元号になっても平成的なものは終わっていないつもりになる国民はどうしたって多くなるでしょう。死による時間の切断がない分、いろいろなことがあいまいになるのではないでしょうか。上皇は日本史をさかのぼればいくらでもいますが、一世一元の近代天皇制になってからは初めてですから。

佐藤:そこで重要なのはいかに易姓革命思想を避けるか。易姓革命とは天子の徳がなくなれば、徳を持つ人が新たな天子になるという古代中国の考え方です。自らの判断での「譲位」が許されれば、緩められた形の易姓革命を考える人間が出てきてもおかしくはない。

 リーマン・ショック級の経済危機や東日本大震災級の災害が起きるたび改元を行うことも可能になる。

片山:幕末も安政、万延、文久、元治、慶応とひんぱんに改元しました。ペリー来航以来の国難がなかなか解決できないのですぐに改元していて、もうわけがわからない。それを明治以降、天皇の生き死にと結びつけて、元号を一元化した。

 先帝崩御によって新しい元号を使えば、崩御と新天皇即位による区切りを無意識のうちにでも確認することになる。国民は天皇とともに生きていることをいやでも意識する。改元が必ず大喪の礼という巨大な国家宗教的儀典と結びついてきたことも大きい。そうやって近代日本人が共有し積み上げてきた時間意識が崩れるはずです。

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