「やつらと一緒に仕事をするって感覚はないね。ヤクザというと警察にすぐ捕まるから、ダミーとして中国人を使うことはある。残留孤児や日本に帰化している連中でも、中国のパスポートを持ったままのやつがいるからね。ヤバくなればすぐに逃げ帰るのさ。やつらは一度もらったものを返しはしないからね。偽造するやつもいるが、偽造も難しくない」
若い衆も、
「中国ならわざわざ偽造しなくても、役所や役人が金をもらって、所定の紙やカードを使ってきちんと作るんだ。書いてあることは嘘だけど、あれを偽造というのかねぇ。日本はきちんとした偽造だよ」
そう言って胸を張るのが、妙におかしい。そして、こう続けた。
「自分らの間でも、今は中国人をヤバイ仕事で使うということはない。一時期は人殺しを金で…というのもあったけど、今は聞かないっすね」
怒羅権(ドラゴン)や関東連合といった半グレ集団が世間を騒がせていた頃、20万~30万円で殺しをやる中国人がいるという噂を聞いたことがあるが、確かに最近では聞かなくなった。
元組長は言う。
「喫茶店なんかで中国人を呼んで、ちょっと人を殺せるヤツを連れてきてって言えば、やつらは適当なヤツを連れてくる。金に困っているヤツをさ。拳銃はこっちで用意するから、ここにいって3発撃ってきてと言えば、バンバンバン。翌日、成田で金を渡して、それでチケットを買って、国に帰っちゃえば犯人はわからない。
オレたちから誰も逮捕されないのがベストで、やったのがオレたちだと相手にわかればいいんだよ。ただ中国人ってやつは捕まった場合、罪を逃れようとぺらぺらしゃべるんだ。それで捕まった者もいる。だから今は誰も頼まない」
だが、こんな話を耳にしたこともある。「密入国で入れた中国人にやらせて、仕事が終わればそのまま殺す。密入国者なら、日本に足跡は残っていない」…と。どれが真実かはわからない。
「まあ、ヤクザと中国人マフィアが組んで仕事をすることはほとんどないね。振り込め詐欺的な集団でも、中国人が頭なら幹部連も中国人。ヤクザが頭なら幹部連も日本人。使われているのが日本人だったり中国人だったり、そんなところだ」
ヤクザにはルールがたくさんある。それを破れば破門になり、破門となれば誰も見向きもしない。半端者に枠をはめているのがヤクザだが、中国人には枠組みも縛りもない。だから何でもアリで、コントロールできないやつらとは組めない、というのが元組長の言い分だ。
「何でも金、金、金のやつらとは無理。やつら、簡単に手のひらを返すし、裏切るからね。ヤクザは信用、信頼が第一なんでね」