国内

大阪桐蔭 最強高校球児の背中を押す「最強の吹奏楽部」秘話

大阪桐蔭の快挙を後押ししたのは…(撮影:藤岡雅樹)

 9月末から行われている福井国体では、甲子園で2度目の春夏連覇を果たした大阪桐蔭が勝利を重ね、公式戦無敗で今年のシーズンを終える快挙を達成した。その大阪桐蔭は、野球部はもちろん、アルプスで選手たちの背中を押す吹奏楽部の素晴らしさでも知られる。ある吹奏楽部員の短い人生を描いた『20歳のソウル』著者で脚本家の中井由梨子氏が綴る。

 * * *
「野球部応援のために吹奏楽部を作った、という高校がある」──吹奏楽作家として知られ、吹奏楽に関する数々の著書もあるオザワ部長にそう聞いてびっくりした。オザワ部長はこう続けた。

「『野球部と肩を並べる部活でありたい』と一念発起し、ついに全日本吹奏楽コンクールで金賞をとるほどの強豪になった吹奏楽部もありますしね」

 わたしは今夏、縁あって『20歳のソウル』という本を上梓させていただいた。市立船橋高校の吹奏楽部で同校の応援歌『市船soul』を作曲した浅野大義さんが題材だ。その浅野さんは、2017年1月、がんのため短い生涯を閉じた。享年20。彼の告別式には、市立船橋高校吹奏楽部OG・OB164人が集まり、この『市船soul』を演奏。たったひとりのために集まった、たった一度きりのブラスバンドだった。

 その小さな奇跡をきっかけに取材を重ねる中で、野球部を応援するアルプススタンドに圧倒された。そして吹奏楽部の素晴らしさを知った。

 それでも、まさか「野球部応援のために吹奏楽部を作る」ほど、野球部と吹奏楽部に強い関係があるとは思っていなかった。

 そもそも吹奏楽部と野球部では対局にある存在──いわゆる文化系と体育会系にも見える(その先入観は『20歳のソウル』の取材をとおして覆されるのだけれど……)。

 高校球児とその応援演奏をする吹奏楽部員を描いたオザワ部長の新刊『一球入魂! 一音入魂!』には、「甲子園で演奏をしたい」と練習に励む生徒たちの姿が描かれている。例えば、今年の甲子園で春夏連覇を達成した大阪桐蔭高校野球部は、実は吹奏楽部もすごかった。オザワ部長は言う。

「大阪桐蔭高校吹奏楽部は、野球部を応援する存在として今年も大きな存在感を放っていました」

 大阪桐蔭高校吹奏楽部は2005年に創部。翌年には全日本吹奏楽コンクールで銀賞、5年目には全国大会で金賞という快挙を成し遂げる。今年の部員数は170名。全国各地にコンサートに出かけ、年間約80公演をこなすというから驚きである。公演数はプロ顔負けの人気部だそうだ。

 実際、今夏の甲子園で、大阪桐蔭はグラウンドだけではなくアルプススタンドも「もっとも注目度が高かった」とオザワ部長。一般的に応援曲というと『アフリカンシンフォニー』『サウスポー』や『ルパン三世のテーマ』など定番と言われるものがある。その点、大阪桐蔭の吹奏楽部は少し違っていた。

「『ウィリアム・テル序曲』や『グレイティスト・ショーマン』など、コンサートで演奏するような曲をスタンドで行います。多くの高校の吹奏楽部が応援用の演奏をするのに対して、大阪桐蔭は応援用の演奏はしない。コンサートと同じ感覚で演奏するんです。スタンドゆえ、大音量を最優先しがちなところを、各楽器の音のバランス、音程、ハーモニーを大切にしながら演奏をする。クオリティの高さで聴く者を圧倒しました」(オザワ部長)

 ご存じの通り、大阪桐蔭は甲子園を制覇。つまり、約2週間で決勝を含む6試合で炎天下のなか演奏し、選手を鼓舞し続けた。試合を勝ち続けてきた選手たちもさることながら、同じ試合回数、吹き続けてきた吹奏楽部もまた、自分の限界に挑んだことだろう。驚くべきは、今年の大阪桐蔭の吹奏楽部では、決勝戦とコンサートの日程が被ってしまっていたことだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

大谷翔平を支え続けた真美子さん
《大谷翔平よりもスゴイ?》真美子さんの完璧“MVP妻”伝説「奥様会へのお土産は1万5000円のケーキ」「パレードでスポンサー企業のペットボトル」…“夫婦でCM共演”への期待も
週刊ポスト
「横浜アンパンマンこどもミュージアム」でパパ同士のケンカが拡散された(目撃者提供)
《フル動画入手》アンパンマンショー“パパ同士のケンカ”のきっかけは戦慄の頭突き…目撃者が語る 施設側は「今後もスタッフ一丸となって対応」
NEWSポストセブン
結婚を発表したPerfumeの“あ~ちゃん”こと西脇綾香(時事通信フォト)
「夫婦別姓を日本でも取り入れて」 Perfume・あ〜ちゃん、ポーター創業の“吉田家”入りでファンが思い返した過去発言
NEWSポストセブン
村上宗隆の移籍先はどこになるのか
メジャー移籍表明ヤクルト・村上宗隆、有力候補はメッツ、レッドソックス、マリナーズでも「大穴・ドジャース」の噂が消えない理由
週刊ポスト
(写真右/Getty Images、左・撮影/横田紋子)
高市早苗首相が異例の“買春行為の罰則化の検討”に言及 世界では“買う側”に罰則を科すのが先進国のスタンダード 日本の法律が抱える構造的な矛盾 
女性セブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
【本人が語った「大事な存在」】水上恒司(26)、初ロマンスは“マギー似”の年上女性 直撃に「別に隠すようなことではないと思うので」と堂々宣言
NEWSポストセブン
劉勁松・中国外務省アジア局長(時事通信フォト)
「普段はそういったことはしない人」中国外交官の“両手ポケットイン”動画が拡散、日本側に「頭下げ」疑惑…中国側の“パフォーマンス”との見方も
NEWSポストセブン
佳子さまの「多幸感メイク」驚きの声(2025年11月9日、写真/JMPA)
《最旬の「多幸感メイク」に驚きの声》佳子さま、“ふわふわ清楚ワンピース”の装いでメイクの印象を一変させていた 美容関係者は「この“すっぴん風”はまさに今季のトレンド」と称賛
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が真剣交際していることがわかった
水上恒司(26)『中学聖日記』から7年…マギー似美女と“庶民派スーパーデート” 取材に「はい、お付き合いしてます」とコメント
NEWSポストセブン
ラオスに滞在中の天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《ラオスの民族衣装も》愛子さま、動きやすいパンツスタイルでご視察 現地に寄り添うお気持ちあふれるコーデ
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン