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2018.10.13 07:00  週刊ポスト

【関川夏央氏書評】無名人たちの多難かつ悲惨な人生の物語

 上原隆は月刊誌に八年半で百回、無名人インタビューを連載した。そのうち二十二本を選んだ。物語ってくれる相手をどうやって探すか。二十年以上前、『友がみな我よりえらく見える日は』という本を出した。同趣旨の名著だ。その本の末尾にメールアドレスを掲げた。いまでもそこに見知らぬ人が連絡してくる。

 ほかにも手立てはあるが、どうしても見つからないときは、路上生活者のための炊き出しに行ったり、街で話しかけてみたりする。公園の女性もその一人だが、上原隆には、相手に警戒されない、なんとなく話してみたくなる、という人柄の才能がある。そうしてみなさん、結構多難かつ悲惨な人生の物語を、明るく語られる。

 旧作と較べても迫ってくるのは、書き手の技術の向上だけではない。話す普通の人々も、聞く著者も、みなやむを得ず加齢したということだ。そのあらがいがたい事実が、このインタビューに「情けない物語の説得力」と「静かな悲しみ」を加える。橋の下を多くの水が流れ去った。橋の上にたたずむ私たちは、日暮れの鐘を聞きながら日々に老いてゆく。

※週刊ポスト2018年10月12・19日号

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