思えば母は昔から、医者や薬に頼らない人だった。戦前に生まれ、体も丈夫だったせいか、薬は重い病人のものと思っているらしい。私が小学生の頃には、風邪程度で病院に連れて行かれることは、まずなかった。
悪寒がして今夜あたり高熱が出そう…というときは、熱々のうどんとみかんと麦茶をたっぷり。熱めの風呂にサッと入り、首にタオルを巻いて寝かせられる。夜中に大量の汗をかき、翌朝はすっきり気分がよくなっていたものだ。
大人になってからはこんなこともあった。私が出産を控えた正月の三が日に、夫がインフルエンザになったのだ。当時タミフルなどの治療薬はまだなく、休日診療をしてくれた医師が切々と諭した。
「解熱剤で熱が下がっている間に卵かけご飯を食べ、体を清潔にしてひたすら眠ってください。薬でなく、自力で菌をやっつけるんですよ!」
知っているようで“目から鱗”だった。母がやっていたのもこれだ。すぐに母に電話をすると「生卵は消化に悪いから、うどんに卵を入れて煮なさい」とさらに指示が来た。
こんな母だから、言われるままに薬をのむことに抵抗があったのかもしれない。
でも今は、3種類とも必要な薬だ。4年前、サ高住への転居を機に、介護保険で服薬援助を導入した。毎日ヘルパーさんが服薬を確認してくれる。すると認知症の症状が落ち着いて生活意欲が増し、血圧も安定。新居の環境のよさも大いに影響していると思うが、母の健康の一端を支える薬の力を改めて感じるのだ。
※女性セブン2018年12月13日号