一品突破とは逆の発想で、総合居酒屋からの脱却を図るチェーンもある。その代表が『晩杯屋』だ。立ち飲み型の居酒屋で、2009年に創業し、現在48店舗にまで拡大している。つまみは100円台中心で、平均客単価は1500円ほど。まさに激安酒場だ。
「固定メニューが存在しないからです。食材は日々入荷量や種類が異なります。たくさん入ってきている食材は売り切らなければ廃棄となってしまう。“こちらが欲しいもの”ではなく、“仲卸が売りたいもの”を買い、提供するので低コストを実現できています。おひとり様でも気軽に入ってもらえるため、1人で食べきれる量に設定しています」(運営元のアクティブソース広報)
立ち飲みなので、店も4~6坪ほどと小さいからテナント料も抑えられる。こちらも朝11時の開店だ。
「いつ行っても同じメニューしかない総合居酒屋と違って、日替わりでメニューが変わるから飽きない。きょうのメニューは何? みたいな話で店員と会話も生まれるし、週2回は来るようにしてるよ」(58歳男性)
こうした新潮流居酒屋が成功している理由について、経済評論家の森永卓郎氏はこう分析する。
「多くが串カツや唐揚げなどの揚げ物なのは、少量でも食べた満足感が得易いという側面がある。まさにちょい飲みの高齢者層に刺さったということでしょう。
また、新潮流居酒屋の出現は、サラリーマンが大勢で一斉に飲むような、昔ながらの飲み会文化が衰退したことを意味しているように思います。実質賃金が下がり続け、居酒屋からサラリーマンの集団が減る一方、年金暮らしのシニアは相変わらず飲める場を求めており、ひとりでちびりと飲みたいニーズも増えてきた。
飲み方が多様化するなか、その時代の移り変わりを敏感に捉えたからこそ、新時代の居酒屋戦争を勝ち抜けたのかもしれません」
安くて旨い店を求める呑ん兵衛たちの欲望は、さらに居酒屋を進化させていく。
※週刊ポスト2018年12月14日号