『歓喜の歌』はママさんコーラスの物語

「なんとか自分なりに監督の要望は満たしたと思う。そして試写を見たとき、自分でも映画を1本撮りたいなって(笑い)。映画って素晴らしい芸術だなと心底思えて」

 映画化をイメージした新作落語は、「メルシーひな祭り」。小さな商店街の人々と外務省役人の感覚の齟齬を描いた作品だ。志の輔はこれまで、映像、舞台化された「歓喜の歌」をはじめ、30近い名作を発表し続けてきた。

 が、落語の神髄は、古典も新作も根本では変わらないと志の輔は言う。

「古典落語の多くは餓えと寒さと貧乏の時代が背景にあって生まれたもの。お酒を一杯ご馳走になるためになんでもする、というような日常の笑いです。いまは逆に、モノがあふれ、何を買ったらいいのかで迷う時代。でも、古典も新作も人間のすごさ、面白さ、愚かさを、手を替え品を替え、時代に合わせて描いている点は同じこと。古典落語を繋げていく、新作落語を創る、この2つのことを、あらゆる空間でやっていきたいですね」

【PROFILE】たてかわ・しのすけ/1954年生まれ、富山県出身。明治大学在学中は落語研究会に所属。卒業後に劇団、広告代理店勤務を経て、1984年に立川談志門下に入門。1990年、落語立川流真打に昇進。全国各地での落語会の他、『ガッテン!』(NHK)をはじめ、テレビ・ラジオのパーソナリティとしても活躍。2008年に芸術選奨文部科学大臣賞、2015年に紫綬褒章など受賞多数。初主演映画『ねことじいちゃん』が2月22日より全国で公開される

●撮影/江森康之 ●取材・文/一志治夫

※週刊ポスト2019年3月1日号

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