片山:あのメッセージは、3.11が1945年8月15日以来の非常時であるという現実を国民に突き付けてきましたね。
佐藤:8月15日には、国体の危機に現人神の昭和天皇が玉音放送という形で人間社会に介入してきた。それと同じ構図で、「3.11のビデオメッセージ」から2016年の「象徴としてのお務めについてのおことば 」を経て「譲位」にいたるまでのプロセスが、8月15日にあたるのではないか、と。
片山:明治以降、前例のなかった「譲位」によって、今上天皇は国体を守ろうとしたというわけですか?
佐藤:ええ。突き詰めれば、そう言えるのではないかと思うんです。では、いま日本はどんな危機にさらされているのか。それが先ほども話題に上った分断です。政治は右と左が対立し、貧富の格差も広がっている。
片山:なるほど。その流れで興味深いのは、反安倍を標榜するリベラル派が天皇神話の文脈を超えて、非常時的、人民戦線的に今上天皇に拠り所を求めはじめたことです。何かあるたびに「国難」を強調する安倍政権の土俵に引き入れられてしまったようにも見える。
佐藤:そう。憲法の4条1項で〈天皇は憲法の定める国事に関する行為のみを行い、国政に関する権能を有しない〉と記されているでしょう。しかしリベラル派は「非常時だから」とこの条項を見て見ぬふりをして、天皇の言動に政治的意味を見出し、反安倍の御旗にしているように見えます。
片山:昭和までなら考えられない現象ですね。必ずリベラル派から、象徴の域を越えていると批判の声が上がったものですが。となると歴史は繰り返す。右派とリベラル派。2つの勢力のどちらが天皇というシンボルをとるかという争いになってくる。安倍政権や安倍政権を支持する日本会議とリベラル派が担ぎたい天皇像は大きく違いますが。