佐藤:日本会議の立場は徹底した天皇機関説です。天皇は国家の一機関に過ぎないという。
片山:王が自ら国を左右する重大な決断をして、失敗したら国体が崩壊しかねない。だから王は何も言わず、ただ担がれていればいいという考え方です。それも明治憲法体制の1つの解釈であり、彼らの論理としては筋が通っている。
佐藤:一方のリベラル派は、戦後民主主義を尊ぶ平和のシンボルである天皇を担ぎたいと考えている。
片山:天皇陛下の徳のもと、人民が社会主義的に平準化されて安寧をえられるというイメージですかね。天皇制社会主義とも言えるような体制を目指しているといえばいいか。
佐藤:右派もリベラル派も同じ天皇を担ごうとすることに、国民もそこに違和感を抱いていない。でもそれだけ国民にとって天皇家が身近な存在となり、天皇神話がどんどん浸透してきている証左です。それが可視化されたのが「しんぶん赤旗」が2017年4月から元号を西暦と併記しはじめたこと。実質的に共産党も天皇制や一世一元の制を認めたわけですから。
片山:天皇制や元号の再定義を求められる時代に、共産党も定義者として参加したいという意思表示なのでしょうか。
佐藤:それも昭和なら考えられない現象が起きているのは間違いない。
●さとう・まさる/1960年生まれ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。主な著書に『国家の罠』『自壊する帝国』など。片山杜秀氏との本誌対談をまとめた『平成史』が発売中。
●かたやま・もりひで/1963年生まれ。慶應大学法学部教授。思想史研究者。慶應大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。『未完のファシズム』で司馬遼太郎賞受賞。近著に『ベートーヴェンを聴けば世界史がわかる』。
※SAPIO2019年4月号