単に真面目なだけではない。イベントでレースでの作戦を訊かれたときには、前週に落馬したことをネタに「落ちないように乗ります」とサラリと笑わせる。地方交流を勝った後、「次は川崎でアウォー(会おう)ディー」と呼びかけたこともあった。
それまでギャンブルという側面でとらえられることが多かった競馬が、彼の明るさのおかげで、スポーツとして認知されるようになった。同時に騎手がアスリートとして見られるようにもなり、競馬に見向きもしなかった女性ファンを競馬場に呼び込んだ。
さて平成の天皇賞(春)だが、前半(~平成15年)は前年菊花賞上位(3着まで)の明け4歳馬が9勝と圧倒、1番人気6勝、2番人気5勝で比較的堅いレースといわれていた。当時はドバイや香港を目指すこともなく、大阪杯もGIではなかったので、3歳時にクラシック戦線を賑わした馬は、当然のように天皇賞(春)を目標にしていたのだろう。15頭中12頭は、すでにGⅠを勝っていた。
しかし世界的にスピード化が進み、路線も多様化した後半(平成16年~)は様相が一変、1番人気はわずか2勝で2着も1回だけ。2番人気が6勝2着2回と8連対、3番人気も5連対、二桁人気馬が4勝も挙げていてきわめて難解だ。天皇賞(春)が初のGⅠ勝ちという馬が9頭もいる。うち3頭は重賞勝ちすらなかった。
三連単が1万円以内で収まったのは2回だけで、10万円以上が10回。まだ三連単の発売がなかった2016年の三連複が21万馬券になっており、三連単が発売されていたら100万近い払戻になっていたはずで、とにかく穴党の出番といえそうだ。
今年は菊花賞の1、2着馬フィエールマン(父ディープインパクト)とエタリオウ(父ステイゴールド)が人気を集めそうだが、外国人騎手は平成22年にジャガーメイルでC・ウィリアムズが勝っているだけで、C・ルメールもM・デムーロも勝ったことがない。
ステイゴールド産駒は4勝しているが、ディープインパクト産駒は2着が1回あるだけ。ハーツクライ産駒も勝ってないが、2着4回というのが気になる。
天皇賞(春)の大穴で思い出すのは、平成16年のイングランディーレと平成24年のビートブラック。どちらも好枠を利して気持ちよく先行し、そのまま逃げ切った。今年は阪神大賞典でロードヴァンドール(父ダイワメジャー)が3着に粘り、日経賞ではメイショウテッコン(父マンハッタンカフェ)が逃げ切ったが、どちらも本番ではそれなりに人気になりそうで、妙味は今ひとつだ。
“逃げ宣言”をしたヴォージュ(父ナカヤマフェスタ)が好枠を引いたが、血統が短距離っぽいリッジマン(父スウェプトオーヴァーボード)などどうだろう。ステイヤーズSを勝っているしダイヤモンドSでも2着がある。逃げを打ったことはないが、2600m以上では9戦7連対と、スタミナには自信がある。隣のゲートから出るヴォージュを無理なく追走できれば、面白い存在になる。
8勝2着6回という「平成の楯男」武豊は、香港で騎乗するため、「平成最後のGI」にその姿はない。ならば、すでに調教師への挑戦を公言、武豊とは競馬学校の同期という蛯名正義騎手の手腕に期待したい。このレース3勝2着2回3着2回という「東の楯男」でもある。
●ひがしだ・かずみ/今年還暦。伝説の競馬雑誌「プーサン」などで数々のレポートを発表していた競馬歴40年、一口馬主歴30年、地方馬主歴20年のライター。
※週刊ポスト2019年5月3・10日号