監督にも名を連ね、美味しい役柄をもらう藤村。「HTB」の社員でありながら、タレント活動をおこなえる理由はひとつしかない。それは彼なくして、現在の「HTB」の繁栄があり得ないからだ。藤村がいなければ『水曜どうでしょう』はない、『チャンネルはそのまま!』も当然ないのだ。
有能な藤村ディレクターを見るたびに、僕はある人物を思い浮かべてしまう。その人物とは「スタジオジブリ」プロデューサー鈴木敏夫だ。
なにせ、この2人には共通点が多い。
名古屋出身の高学歴、共にドラゴンズファン。髭面にメガネという外見も酷似している。どんなにお硬い場所でも自分のスタイルを崩すことはない。鈴木は作務衣、藤村はアロハ、これが2人の正装だ。口達者で声質が優れておりラジオのレギュラー番組を持つ、時に役者業もおこなう。互いに天才を見つけ人生がひらけた人でもある。鈴木は宮崎駿、藤村は大泉洋という天才を発見した。そして、2人共に天才をプロデュースし、0から1を作り出すことに成功。それが「スタジオジブリ」、『水曜どうでしょう』である。
2人の天才にも共通点はある。それは気難しい師匠を持っていることだ。宮崎は高畑勲、大泉は鈴井貴之から表現の基礎を叩き込まれた。そして、宮崎と大泉は芸術肌の師匠を大衆性で勝っていく。
「スタジオジブリ」と『水曜どうでしょう』は、師匠と弟子の関係に部外者が入り生まれた三角関係の先にあった豊穣だったと云える。ちなみに、ジブリには『水曜どうでしょう』のファンが多かったらしい。全国区ではない頃の大泉が『千と千尋の神隠し』で番台蛙の声を担当している。
アウトサイダーがメインカルチャーを作り出す工程は必然と似てくるのかもしれない。
自社で劇場用アニメーションを作り、ヒットさせること。ローカル局がキー局よりも面白い番組を作り、ヒットさせること。
『水曜どうでしょう』で「HTB」は、メイド・イン・北海道をブランド化した。その恩返しなのか、『チャンネルはそのまま!』に出演する役者陣の多くはある法則で集められている。大泉洋、安田顕、戸次重幸といったTEAM NACSメンバー、雪丸の世話係・山根一を演じる飯島寛騎、厳しい編成局長役の斎藤歩、主題歌を担当したRihwa。以上、全員が北海道出身者。小さな役を演じる俳優陣にも道民は多い。意図的なオール北海道ともいえる人選に「神は細部に宿る」のか。
『チャンネルはそのまま!』は、明確な悪役を作らない点も優れていた。すぐに悪役を作りたがる近ごろのドラマとはココが違う。つまり、よく台本がよく練られていた。出てくるキャラクター皆に血が通っている。
大泉が演じる助成金を私的に流用し、業務上横領の疑いがかかるNPO代表。最終話、自ら退っ引きならない事情を雪丸に打ち明ける。逮捕される寸前の緊迫したシーン。しかし、語れる内容がまぁ人間臭い。この状況を中継カメラで見た小倉が「こんな面白い状況、俺たちだけで見ているのはもったいない。生中継しよう!」と提案。このドラマは美談にしないから良い、各所でテレビマンの残酷な一面を見せる。腹を割って話そう、とことんフェアな作風なんだ。
主人公・雪丸のおバカさによってマイルドになっているが、作品が持つメッセージは硬派。キー局との確執など、今まで光が当たることがなかったローカル局の現実が映される。
おバカそうでいて実は深い(かもしれない)、柔和そうに見えているが中身はクセ者(かもしれない)。『チャンネルはそのまま!』は「蛙の子は蛙」、そういった意味で藤村という人間によく似ていた。
●ヨシムラヒロム/1986年生まれ、東京出身。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。イラストレーター、コラムニスト、中野区観光大使。五反田のコワーキングスペースpaoで週一回開かれるイベント「微学校」の校長としても活動中。テレビっ子として育ち、ネットテレビっ子に成長した。著書に『美大生図鑑』(飛鳥新社)