タイ中部パタヤの日本人詐欺グループが拠点としていた一軒家(時事通信フォト)
「こんだけニュースでもやってるし、今どき“出し受け(出し子、受け子)”やる奴なんてそうそうおらんでしょう。ネット使って集めても飛んだり(逃げたり)、裏切ったり信用もクソもない。一番いいのは、借金しとる奴ですよ。金借りるときには、身分証出したり実家教えたり、親とか兄弟を保証人に立てるでしょう? そういう奴が返済に困ったときに“バイトあるよ”って教えてあげる。イモ引く(怖がる)奴が大半ですけど、返済で首が回らんようになった奴はやりますよ」(半グレの男性)
今回の事件の特質については先に述べた通りだが、これについても“個人間融資”の実態と照らし合わせれば説明がつくという。
「金貸て言うても、サラ金とか街金が相手にせんブラック、いわゆる多重債務者を狙うわけです。SNSで“個人間融資”ていうて、無許可の業者やら人間が、個人相手に金を貸すシノギがあります。担保はいらんですけど、免許証の写真やら実家や親族の情報、そうしたものを全部洗いざらいにさせて、10万とか20万とか貸すわけですね。そういう危ないところから借りるほど追い詰められとるわけですから、危なか橋でもすぐ渡る。融資は基本的に対面で行いますから、福岡の貸主が借り手に“バイトあるよ”って誘えば、犯人も福岡に偏るでしょう。これ以上は自分で調べてください…」(半グレの男性)
そもそも個人間融資とは、文字通り個人と個人がお金を貸し借りすること。事故や病気などで親戚からお金を借りたときに借用書をつくって返済の方法を定めた、といったことも個人間融資のひとつだ。貸金業法、利息制限法、出資法などの法律に違反していなければ問題がない。もっとも、半グレ男性が関わった個人間融資は、実態が貸金業だったり、法外な利息を取るなど問題だらけ、違法行為そのものである。
ネット上の個人間融資に関しては、筆者も別で取材を行っている。ツイッターなどSNS上のやり取りだけで簡単に金の貸し借りをしている、と言えばそうなのかもしれないが、実際には“審査”がある。債務者は免許証を見せるなど、個人情報を相手に丸ごと渡すのだ。中には、女性債務者に裸の写真を送らせたり性的関係になることを要求したり、補償金名目で、債務者に借りる金額の数割の金を振り込ませて行方をくらますような詐欺も横行しているが、個人情報さえ出せば実際に金は借りられる“個人間融資”は存在する。そして債務者は、借金よりも怖い「カタ」にはめられ、自滅するしかない。
九州西部地方に住む無職男性(45)は一昨年、事業の失敗を経て債務整理を行ったが、生活が立ち行かなくなりネット上で見つけた「個人間融資」に申し込んだ。先方は「弱者救済」など謳うプロフィールをSNSに記載していたが、実際は違法な高利貸し。金を借りるために男性が赴いたのは福岡市内だった。
「債務整理を行なっており、まともな金融機関からは借りられない。止むに止まれず、ツイッターで見つけた個人間融資に申し込みました。10万円借りたいと相談すると、福岡市南区にあるパチンコ店の駐車場に呼び出されました。停めてあった先方の車のなかで、免許証や保険証の写真を撮影されて、自宅が本当にあるかどうかをネットの地図で確認までさせられましたが、手渡されたのは7万円。融資ではなくてトサン(10日で三割)の闇金だったんです。男は日本語はうまいが、アジア系の外国訛り。恐ろしくなり、断るに断れませんでした」(無職男性)
男性は最初の20日間で、違法な「利子」を3回分支払った。当たり前だが元金はびた一文減らず10万円のまま。すでに9万円を支払っているのに、である。10万円を借りただけのはずが、その時点での債務額合計は19万円。まさに男性はカタにハメられた格好になった。
「4回目の支払いに困り先方に相談すると、漫画に出てくるような怖い闇金業者風に脅されるんです…。でも最後は優しくなって、一緒に返済のことを考えていこうって…。そこで聞かれたのがパスポートの有無、そしてフィリピンかマレーシア、もしくはタイで少なくとも一ヶ月以上アルバイトする気はないか? 簡単な“テレアポ”だということでした」(無職男性)
このやりとりが行われたのは去年の11月ごろ。男性は親族に泣きつき、なんとか用立ててもらい4回目の支払いで全額を返済すると、全てのやりとりを絶った。もしかすると逮捕されていたのは自分だったのではないかと、思い出しては冷や汗をかく日々。
タイで逮捕された邦人のうち複数が金に困っており、闇業者からの借金を重ねていたことは、取材で明らかになった。果たして連中もまた「カタにハメられた」が故に、犯罪者に成り下がったのか。特殊詐欺は、今この瞬間も行われており、新たな被害者が生まれてしまっている。一刻も早く、事件全貌が明らかになることを願う。