このように『ドキュメンタル』とはハードモードなゲーム。今回のコラムを執筆するにあたり全シーズンを観返し、再確認する。また、そのなかで『ドキュメンタル』で普遍的に問われている2点の項目にも気がついた。

 ひとつ目は、自分が用意してきた持ちネタを披露する積極性。配信される動画では松本もツッコミや笑い声も入って賑やかだが、実際の現場は無音だという。そんな緊迫した状態でいかに自分の攻撃時間を作っていくか。シーズン7、ゲームが始まる数秒前「こんなことを言うのもなんですけど、『ドキュメンタル』で攻撃せずに面白くなかった人って無茶苦茶叩かれますから」と松本。リスクをとらず、ただ笑わないで場にいるだけでは許されない厳しさがある。

 ふたつ目は、現場で起こる事柄に対して瞬時に笑いで返せる即興性。攻撃を仕掛けられた際の受け身、そこからの反撃が見所である。台本ありきで進行するバラエティ番組とは異なるため、自身から生み出す言葉で勝負するしかない。

 上記の2点において、『ドキュメンタル』史上最も優れていたのがハリウッドザコシショウだと言えよう。シーズン7でももちろん優勝。ちなみに、笑ってしまった回数は1回、笑わせた回数は……ナント11回。圧倒的な強さを誇示していた。

 また、繰り出される笑いがオリジナルの塊だから素晴らしい。どんな芸人にも似ていないスタイル。確かに面白いのだが、言葉で説明するのが実に難しい新しい笑い。松本がかつて生み出したロジカルな笑いとは真逆のスタイル。理屈じゃなくて感性に訴えかけてくる、野生的な面白さ。

 ハリウッドザコシショウに3回笑わされた小籔は、敗者インタビューで「ザコシショウのお笑いのメカニズム無茶苦茶ですよね」と吐露していた。理論派の小籔ですら、言語化できていない未知なる笑い。かつて、松本は自身が“面白い”と考えることが“面白い”ことであると世間に認めさせた。それと同じ行為をハリウッドザコシショウは『ドキュメンタル』で再現している。自らが生み出した変な行為で玄人を爆笑させ、世間に自分の笑いを提示。これは過去、ハリウッドザコシショウが旋風を巻き起こした『あらびき団』『R-1ぐらんぷり』よりも強固なアピールとなるだろう。

 既存の芸人の誰しもが大なり小なり松本人志の影響下にある。ハリウッドザコシショウも影響を受けているハズ。しかし、それがあまりにも見えてこない。松本がゲームマスターを務め、ジャッジもする“ルールがない状態で誰が最も面白いのか?”を決める大会で、勝者となった芸人の芸風が松本要素少なめだったということは興味深い事象だ。

 新しい笑いが肯定される場所『ドキュメンタル』。制作が決まっている次回シーズン8で、新たな笑いの創造主が生まれるのだろうか。誰も知らない、未知なる笑いの領域を観せてくれることを期待している。

●ヨシムラヒロム/1986年生まれ、東京出身。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。イラストレーター、コラムニスト、中野区観光大使。五反田のコワーキングスペースpaoで週一回開かれるイベント「微学校」の校長としても活動中。テレビっ子として育ち、ネットテレビっ子に成長した。著書に『美大生図鑑』(飛鳥新社)

関連記事

トピックス

役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さんが今も築地本願寺を訪れる理由とは…?(事務所提供)
《笑福亭笑瓶さんの月命日に今も必ず墓参り》俳優・山口良一(70)が2年半、毎月22日に築地本願寺で眠る亡き親友に手を合わせる理由
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン