同じく近所に住む、70代の女性も、事件直前の岩崎容疑者の姿を目撃している。
「たまたま3日ほど前に隆ちゃんを見かけたのよ。両手に買い物袋を持って、リュックを背負って、うつむき加減にこの前を通り過ぎていった。挨拶もしないけど、あら隆ちゃんだって思っていた。それがこんな事件を起こすなんて……」
容疑者自身だけでなく、伯父夫婦も、近所との交流はほとんどないようだった。家の中での様子の一端が明らかになったのは、川崎市役所が開いた会見だった。
「(伯父夫婦から)高齢なので訪問介護サービスを受けたいが、長期間就労していなくて引きこもり傾向にある家族がいるので、そこに外部の人が入るのは大丈夫かと心配する相談があった。一緒にいながらなかなか会話がないという話だった」
今年1月、伯父夫婦が岩崎容疑者の意思を確認する手紙を部屋の前に置いたところ、口頭で「自分のことはちゃんとやっている。引きこもりとは何だ」と言われたという。それを受けて伯父夫婦は「しばらく(岩崎容疑者の)様子を見たい」という意向を市の職員に示した。
社会との最後の接点だった伯父夫婦を残して、岩崎容疑者は凶行に及び、自ら命を絶った。伯父夫婦は警察の取り調べには応じたが、遺体の身元確認は拒否したという。このまま引き取りも拒否すれば、無縁仏として葬送されることになる。
岩崎容疑者の近くにいた人物でさえその人生の大半を知らない。凶行に至った動機はおろか、“引きこもり”状態になった原因さえもわからなければ、事件の全容解明は進まない。岩崎容疑者が40年にわたって抱えてきた孤独の闇は、あまりにも深かった。
※週刊ポスト2019年6月14日号