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「安楽死を遂げた日本人」に密着 私たちに問いかけたこと

プライシック医師に取材する宮下氏

「映像が目に焼きついて眠れなかった」……NHKには放送翌日までに約300件もの感想が視聴者から寄せられたという。NHKスペシャル『彼女は安楽死を選んだ』(6月2日放送)は、スイスで安楽死を遂げた初の日本人女性に密着し、最期の瞬間まで映した衝撃の内容だった。その女性に寄り添い、番組に協力したジャーナリストで『安楽死を遂げた日本人』著者の宮下洋一氏がレポートする。

 * * *
 彼女からのメールが届いたのは去年の8月だった。タイトルには「安楽死をスイスにて行うつもりです」とあった。

 私はメールアドレスをネット上で公開しているので、世界各国の安楽死についてルポルタージュした拙著『安楽死を遂げるまで』が出版されてからは、しばしば安楽死に関する相談を受けるようになった。多くは自殺願望を持つ、字義通り「安楽な死」を求める人々で、メールの差出人の小島ミナさん(当時50歳)も、そうした一人だろうと思った。

 しかし、彼女は違っていた。メールにはこうあった。

「私は多系統萎縮症という難病に罹患しています」

「多系統萎縮症」とは、小脳などの変性によって徐々に身体機能が奪われていく病気だという。ゆっくりとではあるが確実に進行し、やがて四肢が動かなくなり、言葉も話せなくなり、思考以外のすべての機能が奪われ、寝たきりとなる。現状では根治療法はない。

「機能を殆ど失くし、人工呼吸器で息をし、話す事も出来ず、胃瘻(いろう)で栄養を身体に送り込み、決まった時間にオムツを取り換えて貰い、そうやって毎日を過ごしたくはないのです。(中略)寝たきりになる前に自分の人生を閉じることを願います。私が私であるうちに安楽死を望みます」

 メールの文面からすでに車椅子生活に入っていて症状が進んでいることが窺えた。それまでの相談とは異なる切実さが感じ取れた。

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